展覧会
西南戦争浮世絵 −さようなら、西郷どん−
【趣 旨】
海の見える杜美術館では、7月21日(土)より企画展「西南戦争浮世絵 さようなら、西郷どん」を開催いたします。
西南戦争は、1877年(明治10)、現在の熊本、大分、宮崎、鹿児島を舞台に西郷隆盛を首領とした薩摩士族が起こした日本最後の内戦です。薩摩軍はこの戦いに敗れ、西郷も鹿児島城山で自刃しました。
西南戦争浮世絵は、その戦況を伝えた多色摺木版画で、これによって庶民は、遠く離れた九州地方で起こっている戦争の状況をリアルタイムで知ることができました。絵師たちは、新聞記事などの限られた情報をもとに、時には虚構を交え、臨場感あふれる描写で戦場の様々な場面を描きました。
出版された浮世絵の多くは、薩摩軍の進撃の場面や陣中でのエピソードを描いており、彼らの動向が世間の注目の的であったことがわかります。中でも西郷にスポットをあてた作品は数多く、当時の西郷人気の高さがうかがえます。戦争が収束した後もその需要は衰えず、西南戦争に取材した歌舞伎の役者絵や双六などのおもちゃ絵が売り出されました。
本展覧会では、当館所蔵の300点以上の西南戦争浮世絵コレクションの中から厳選した約100点を公開します。当時の人々を強く惹きつけてやまなかった西南戦争浮世絵の世界をどうぞご堪能ください。
【基本情報】
開館時間:10:00-17:00 (入館は16:30まで)
期 間:2018年7月21日(土) 〜 10月14日(日)
開館時間:10:00-17:00 (入館は16:30まで)
休 館 日:月曜日
*但:9月17日、9月24日、10月8日(月・休)は開館
*9月18日、9月25日、10月9日(火)は休館)
入 館 料:一般¥1,000 高・大学生¥500 中学生以下無料
*障がい者手帳などをお持ちの方は半額。
*介添えの方は1名無料。20名以上の団体は各200円引き。
会 場:海の見える杜美術館(広島県廿日市市大野亀ヶ岡10701)
後 援:広島県教育委員会、廿日市市教育委員会
【イベント情報】
*当館学芸員によるギャラリートーク
日 時 : 7月28日(土)、8月25日(土)、9月29日(土) 13:30~ 30分程度
会 場 : 海の見える杜美術館 展示室
聴講料 : 無料(入館料別途必要)
事前申し込み : 不要
【展示概要】
第1,2展示室『戦況の速報』
ここでは薩摩軍と政府軍の戦いの場面や陣立ての場面など、西南戦争の戦況を報道した作品を通して、戦争の始まりから終わりまでを辿っていきます。これらの絵は当時東京や大阪で連日のように売り出されましたが、制作者は実際には戦地まで取材に行っておらず、新聞記事等の間接的な情報をもとにして制作を行いました。新聞記事の誤報をそのまま絵にしたり、噂などを事実であるかのように描いたり、絵師が想像で脚色を加えたりしたものが多く見られ、必ずしも事実を伝えていたとはいえません。しかし、九州の地を舞台に行われている戦争を、リアルタイムで視覚情報としてより鮮明に庶民に伝えたという点では、浮世絵の果たした役割は大きいものでした。またここでは、戦況の速報とは別に、揃物として売り出された薩摩軍・政府軍の主要な人物に焦点をあてた作品を展示し、西南戦争の登場人物についてもご紹介します。
第3展示室『女軍隊の奮戦』
薩摩兵士の妻子などで構成された架空の軍隊「女軍隊」が主役の作品を紹介します。西南戦争の戦況を報道した作品の中には、架空の人物(例えば出品番号8,10に登場する前原一格など)が活躍するものがしばしばありますが、そのほとんどは新聞記事が出た時のみに描かれ、それ以降はほとんど登場することがない一過性のものでした。しかし、戦場で奮戦する女性の図は、戦争終結まで繰り返し描き続けられ、特に美人画の名手といわれた楊洲周延は多くの作品を残しました。薩摩軍の一員として戦う女性たちの存在は、当時の新聞記事にも書かれましたが、その存在については懐疑的に扱われ、現在でも史実とはみなされていません。なぜこの題材が好評を得たのかは定かではありませんが、江戸のかわら版では女性の仇討ちは特に人気があったそうで、夫や子供のために政府軍を相手に戦う女軍隊もまた、人々の心を捉えたのかもしれません。色とりどりの着物を身にまとい、政府軍相手に派手に立ち回る女性たちの姿をご覧ください。
第4展示室『おもちゃ絵』
西南戦争を題材とした浮世絵には、子供が手遊びしたり、物を覚えたりするのに使ったおもちゃ絵もあります。その内容には、登場人物(主に薩摩軍)や事件・出来事を列挙したものや、戦争の始まりから政府軍による戦争平定までを描いた双六などがありました。西南戦争の影響は、子供の遊びにまで浸透していました。
『風刺画など』
江戸時代から世相や時局を風刺した絵は多く制作されましたが、西南戦争下でもそういった風刺画が見られます。拳遊びという三すくみの状態を描くことで、西南戦争下での様々な人の利害関係や立場を風刺した作品、西南戦争を面白おかしく風刺した俗謡を取り上げている作品をご覧ください。
『西南戦争と役者絵』
戦争終結からさほど間がない翌年1月から、各地で西南戦争に取材した歌舞伎が上演され始め、それに伴い役者絵が制作されるようになります。その中でも、東京・新富座で2月より上演され、興行80日以上に及ぶ大ヒットとなった「西南雲晴朝東風」の舞台の役者絵は数多く制作されました。この芝居の作者である河竹黙阿弥は、本作を当時出版された新聞や浮世絵、関係者への取材をもとに制作しています。全7幕16場が薩摩軍視点で構成され、9代目市川団十郎が西條高盛(西郷隆盛)、初代市川左団次が岸野年明(桐野利秋)など時代の名優により演じられました。そしてそれらの場面は、役者絵の名手であった豊原国周の手で描かれ、上演と同時期に売り出されました。西郷隆盛が西條高盛、桐野利秋が岸野年明と実名から微妙に改変されているのは、歌舞伎や人形浄瑠璃で実在する人物を扱うときは、時局に触れぬよう、名前や時代を変えてごまかしながら扱うのが通例とされていたためです。舞台で演じられた西郷たちの姿をお楽しみください。
『西郷隆盛と西南戦争浮世絵』
薩摩軍の首領、西郷隆盛を主題にした作品は西南戦争の登場人物にスポットを当てた浮世絵の中でも特に多く、当時の西郷人気の高さがわかります。また、それらの制作時期は西南戦争の終盤から終結以降に集中していることから、その背景に、西郷人気という以外にも、世間の人々の彼に対する同情やその死を悼む気持ちなどがあったことが推察されます。絵の内容は様々で、西郷と妻子の別れの場面を想像で描いた作品や、夜空に輝く大きな星の中に官服姿の西郷が見えると騒動になった西郷星を題材としたもの、中には彼が死んだあと地獄に攻め入り、大暴れした話など死んだ後のエピソードまであります。展覧会の最後は、西南戦争の中心人物、西郷隆盛が主役の作品をご覧ください。