美術館の大切な仕事のひとつは、館全体を清潔にすること。
例えば、作品を保管する場所へのホコリ対策は、こんな感じになっています。
作品の保管場所に行くまでに、空気を遮断する壁が5つ、靴の履き替えが2回、掃除もこまめにおこなって・・・もう十分じゃない?
いや、粘着マットがあと2か所。
しつこい!!!
・・・でも大事なんです。
うみひこ
当館の所蔵品を中心として構成された『生誕150年記念 竹内栖鳳』巡回展示が8月に無事終わりを迎え、およそ1年ぶりに作品たちが、そして一緒に巡回していた展示ケースたちが帰ってきました。
展示ケースは、作品がよりよく見えるように存在感を消しているので目立ちませんが、作品を衝撃や汚染から守る大切なアイテムです。展示ケースなくして展覧会は成立しません。展覧会の影の主役といってもいいのではないでしょうか。このたびの展覧会に使用した展示ケースは、作品がとても見やすくて良かった、と、お喜びの声を頂戴する事が出来ました。 ホッ。
海杜のスタッフは、作品の魅力をご堪能いただくためにはどのようにすればいいか、いつも想いをめぐらし、展示ケースや額椽などに工夫を凝らします。たとえば、作品の本来持っている“感じ”を大切にしつつ、隅々まで詳細にご覧いただきたいとの思いから、海杜オリジナルの浮世絵の額が生まれました。
お客様のご満足の様子を拝見できたとき、体の内側からじんわりと喜びが湧き出てきます。
うみひこ
竹内栖鳳は1942(昭和17)年8月23日に没しました。
その後、時代は戦局悪化の一途をたどり、翌1943(昭和18)年には学徒出陣が始まります。
美術の世界も時局の流れに従い、同じく1943年に『日本美術及工芸統制協会』と『日本美術報国会』の二つの組織に集約されて、徹底的に管理されていきます。国家は、ナチスドイツの文化統制にならって、芸術を権力でねじ伏せ、隷属させるつもりだったのでしょうか。
海杜の所蔵する『日本美術及工芸統制協会』関係資料には、常軌を逸した美術界の生々しい記録が含まれています。単に美術史上の資料にとどまらず、この歴史を二度と繰り返してはならないと警鐘を発している史料でもあります。
所蔵史料より
海杜の所蔵品を中心とした『生誕150年記念 竹内栖鳳』巡回展が、明日8月30日(日曜日)、いよいよ最終館の小杉放菴記念日光美術館で最終日を迎えます。一人でも多くの方がご来館され、美術の醍醐味を満喫していただいて、平和の再認識につながることを願ってやみません。
さち
青木隆幸
1)一八企局第三四三〇号
「一八企局第三四三〇号
昭和十八年十月十八日
商工省企業局長 豊田雅孝
社団法人日本美術及工芸統制協会
会長 吉野信次殿
日本美術及工芸統制協会支部結成に関する件
今般美術品及技術保存を要する工芸品に対する統制の完遂を期するため貴会支部設置方に関し別紙の通各地方長官宛通牒致候に付ては之が趣旨篤と御諒承の上支部結成に万全の措置相成度此段及通牒候也」
2)美報美統会報
「美報美統会報
創刊の辞
美報会長 横山大観
ここに『美報美統会報』第一号を発刊した 物みな挙げて戦争にささげられる秋 用紙の不充分なのは当然であって、むしろこれを発行し得たことは極みない皇恩の有難さを思はねばならない。思ふに会報は会員相互の親睦、連絡、報告の機関だけに止まらず広く大東亜戦下わが芸学人の活動を伝へて恥なく、これを後世に残して悔なき底の覚悟を以て運営されねばならない。形は小さくとも、そこに現下芸学人の雄渾な魂が溌剌と反映していなければならない、それにはまづ芸学人自体が全魂全霊を以て、各自の芸道に打込むべきである。わが前線勇猛の将兵は真に命を的に戦っている。我等芸学人も亦命がけでなければならない。いやしくも資材のふそくなどかこつべき秋ではない。かの宋の絵画は僅か色紙大の小幅でよく唐の眼の文化に対し高き心の文化を樹てたではないか、一本の筆、一丁の墨があれば紙障子を剥がしても、気韻生動の作は生まれようし鑿と槌があれば廃木に不朽の名品も刻まれよう。 (中略)
未曽有の国難に際会して、今こそ全生命力を傾けて己が本然の使命と戦ふ。真に日本的芸道の開拓につとめよう。それが芸学人の真の報国の大道である。会報の創刊を祝して所懐を述べる次第である。」
『美報美統会報』第一号所収、社団法人日本美術及工芸統制協会、昭和19年6月15日、頁1
(以上転載にあたり文字を適宜あらためました)
開館以来、平面の作品は、すべて自分たちで撮影しています。
図録やポスター、チラシの原稿となる写真も含めてすべてです。
そこでは、海杜の大切なスタッフとして、フィルムカメラが活躍してきました。
時代の流れと共に、フィルムの生産が次々と終わりを迎え、今ではデジタル撮影が主流となりました。
決してオーバーな数字ではなく、あわせて何十万カットも撮影してきたアナログの名機たちが、しばし休息の時をむかえたようです。
左から
ニコンF2 フィルムサイズ35ミリ
マミヤRB フィルムサイズ6×7センチ
トヨビュー フィルムサイズ4×5インチ
ジナー フィルムサイズ8×10インチ
これまで撮影した画像は、高精細デジタル化を行い、今後も大切に使用します。
そしてすべてのフィルムは、美術品の大切な記録として、将来にわたって保存されます。
カメラの皆さん、
長いあいだ、本当にありがとうございました。
うみひこ
「掛け軸とか巻物とか展示できるガクブチ作って。それから購入予算はないから、今ある材料でよろしく。」
休館中の美術館の工房に、学芸の森下さんからこのような依頼が舞い込んできました。
依頼主の希望する寸法を聞いて、だいたいのイメージが出来たら、工作に取り掛かります。
今回は余った木を材料に、丸鋸と電動カンナを使ってガクブチを作ることにしました。
電動カンナ(右の機械)で木の表面を削ってきれいにして、
ガクブチに加工するための溝を掘りました。
丸鋸(ピンクの機械)を使って端を45度で切り、
角をビスで留めて組み立てます。
表と裏に、いつも使っているガクブチを分解してはめると、
立体ガクブチのできあがり。
このあとは、壁色に合わせてペンキを塗ります。
これで、展示ケースがないところにでも掛け軸や絵巻物を展示する事が出来ます。
うみひこ
うみひこさんへ
便利で素敵なガクブチを作ってくださってありがとうございました。
でも、私あんな言い方しましたっけ? すいませんねえ。森下麻衣子より
「東海道五十三次」などを描いた浮世絵師として知られる歌川広重(1797-1858)は、絵を描く楽しさを多くの人に伝えるために、絵の入門書を出版しています。今回紹介する『絵本手引草』はこうした本のひとつです。
序文で広重が「画家をめざす子供たちが、本格的に絵を習うまえの手引きになることを願って作りました」と語っているとおり、草花をはじめ、鳥や魚まで、さまざまな描き方で掲載されています。
この本の冒頭には、春を告げる花である福寿草が、3種類の描法で紹介されています。最初に紹介されるのは、「写真」によって描かれた福寿草です。「写真」とは現代の「フォトグラフィー」ではなく、「ありのままに描く」という意味です。つづいては「草筆」で描いたもの。「草筆」とは、着彩を抑えてさっと描くものです。最後はごく簡略な描き方である「極草画」で、筆の穂全体を使って、花びらひとつずつ黄色か薄墨で描いたらいい、と描き方の指南も添えられています。
さて、このフクジュソウは現在、杜の遊歩道の梅林でも見ることができます。
つぎつぎと新しいつぼみもでています。
思わず絵筆をとって描いてみたくなりますね。
もりひこ
(↑本文とは全く関係ありませんが、
山が雪をかぶってきれいだったので、写真を一枚)
お久しぶりでございます。
「竹内栖鳳」展が大好評のうちに閉幕して以来、
海の見える杜美術館は休館しておりますが、
スタッフは皆つつがなく過しております。
休館中は何やっているのだろう?という疑問をお持ちの方も
多数おられることと思います。
大丈夫です、美術館内部はリニューアルに向けて稼動していますよ!
休館し始めてしばらくは、耐震工事の準備として、美術館のさまざまな什器、
展示部材、図書などを移動させました。結構な量がありましたし、
それらのほとんどは、かなり重かったです。
この一ヶ月で腕力はついたのではないかと思います。
この調子で鍛えて、フィジカル面に特化した学芸員になりたいものです。
強くなりたい。
工事の準備が落ち着いたら、今後は作品調査なども行う予定です。
ブログでちょくちょく活動報告をしていきたいと思っていますので、
ご覧になってくださいね。
それではまた!
森下麻衣子
竹内栖鳳が若かりし頃描いた12面の襖絵を展示するにあたり、当初の姿に近い展示をして、栖鳳の絵に囲まれ、そして、大勢の方にお越しいただく美術館としては異例かもしれませんが、襖を開けるという所作をもお客様にお楽しみいただきたいという思いから、この度の竹内栖鳳展で広間の再現を試みることになりました。
三方を囲む空間表現、そして、襖を開けても破たんしない、襖の重なりまで計算された構図の妙、何よりそのたたずまいをお楽しみいただけると幸いです。
この展示は、第二展示室(鳥の作品を集めた部屋)の先にあります。
12月14日まで、“幻の油絵”公開で話題の「生誕150年記念 竹内栖鳳」を開催しています。ぜひお越しください。
うみひこ
受付を済ませて右側へ進み、1階ギャラリーでスケッチや写真、蔵書など栖鳳の学びの足跡をご覧いただいた後、エレベーターで2階へあがり、いよいよメインの展示会場へとお進みいただきます。
2階へ到着し、エレベーターを降りて右側へ進み、案内に従って自動扉を過ぎるとすぐ正面に、長女 園の輿入れに際し、父栖鳳自ら絵筆をふるった打掛が展示されています。およそ100年前の1919(大正8)年に披露された後、人目に触れることはなかったのではないでしょうか。栖鳳の愛娘に向けた深い想いを感じることができる貴重な作品です。
12月14日まで、“幻の油絵”公開で話題の「生誕150年記念 竹内栖鳳」を開催しています。ぜひお越しください。
うみひこ
当館は、展示をひと通りみたあとロビーにもどってくる順路になっています。
そこで何となく展覧会を見終わった気分になるのですが、受付を正面に見て左側にもう一つ、第五展示室がございます。
入り口のガラス扉から部屋をのぞくと、中は少し暗く様子がよく見えませんが、どうぞ自動扉『開く』のスイッチを押してください。この部屋では、いろいろな角度から作品をご堪能いただけるよう、特に工夫を凝らした展示を試みています。
12月14日まで、“幻の油絵”公開で話題の「生誕150年記念 竹内栖鳳」を開催しています。ぜひお越しください。
うみひこ