ホンモノ? ニセモノ?

海の見える杜美術館所蔵の引札(商店がお客様に配った広告)を整理していると、竹内栖鳳の落款のある作品を2点見つけました。

20151106ホンモノ ニセモノ 《龍虎図》
引札《龍虎図》

20151106ホンモノ ニセモノ 《旭日青竹清流に虎》
引札《旭日青竹清流に虎》

竹内栖鳳は、掛け軸や屏風といった日本画の型にこだわらず、いろいろな素材に絵を描いた人です。たとえば団扇絵もたくさん描いていますし、珍しいところでは、墨のデザインも手掛けているので、引札のデザインをしていたとしてもおかしくはありません。


竹内栖鳳『団扇画綴帖』より《青竹に烏瓜》 (海の見える杜美術館蔵)

20151106ホンモノ ニセモノ 竹内栖鳳 墨銘《ぬれからす》
竹内栖鳳 墨銘《ぬれからす》 鳩居堂製 (使用済み)(海の見える杜美術館蔵)

ですからほんの一瞬、新発見作品かと期待が膨らんだのですが、
一見して竹内栖鳳らしくありません。栖鳳は旧弊を打ち破って次々と新しい絵画表現に取り組んだ革新的な作家のはずなのに、これらの引札からは、何かの絵の手本を引き写したかのような旧態依然とした印象を強く受けるのです。

栖鳳の残された絵をいろいろ調べてみましたが、同じような作品は確認できませんでしたし、念のため栖鳳が若いころ勤めて刺繍画などを手掛けた高島屋に写真でも資料が残っていないかと廣田孝『高島屋「貿易部」美術染色作品の記録写真集 京都女子大学研究叢刊47』(京都女子大学2009年)をめくってみたりしたのですが、やはり似た絵を見つける事は出来ませんでした。

それでは真贋判定の基本、落款の書体や印章の形はどうでしょうか、

20151106ホンモノ ニセモノ 《龍虎図》-2
引札《龍虎図》(落款 印章)

20151106ホンモノ ニセモノ 《旭日青竹清流に虎》-2
引札《旭日青竹清流に虎》(落款 印章)

まず印章を見てみましょう。栖鳳が実際に使用していた400種類以上もの印の中から、下の2つがとても似ていることがわかりました。

20151106ホンモノ ニセモノ 芸猿図
《芸猿図》より(海の見える杜美術館蔵)

20151106ホンモノ ニセモノ  港頭春色
《港頭春色》より(海の見える杜美術館蔵)

とても似ています。しかし、いずれも細部が異なりますので、引札に使われた印は似せて作られもので、栖鳳が所有する印を使ってはいないことがわかります。

落款の書体はどうでしょうか。詳細な分析は割愛しますが、本人の筆跡とは感じが違います。特に《旭日青竹清流に虎》の鳳の字は、抑揚の弱い、栖鳳の特徴とは異なる書体になっています。

ひとつの参考として、似ている栖鳳の落款を提示しておきますので見比べてみてください。

20151106ホンモノ ニセモノ 烏鷺図 (2)左隻  20151106ホンモノ ニセモノ 烏鷺図 (1)右隻 《烏鷺図》屏風(海の見える杜美術館蔵)

制作年代から考えるとどうでしょうか。これらの引札には制作年代の根拠となる情報は残されていません。そこで唯一の手掛かりともいえる落款の特徴から推定すると、明治末から大正初めの1910年頃が考えられます。1900年のヨーロッパ周遊から帰国して《飼われたる猿と兎》(東京国立近代美術館蔵)をはじめとしたリアルな動物の描写で数々の名作を生み出している頃です。この時に栖鳳が古い時代を踏襲しただけのような絵を描いて引札にするとは考えにくいのではないでしょうか。

栖鳳が描いた虎の一例をご覧ください。緻密なスケッチを繰り返して生み出された作品からは、たたずまいから毛並みまで、動物の本質に迫ろうとする姿勢がひしひしと伝わってきます。


UMI60《臥虎》(部分)(海の見える杜美術館蔵)

以上のことをふまえると、これらの引札の絵を竹内栖鳳が描いたと断定するのは難しいと思います。

 

引札は、商店や商品の名前を印刷して、宣伝のために配られるものですから、現在目にするものの多くには、絵だけではなくいろいろな文字が印刷されています。

20151106ホンモノ ニセモノ 陶器商 桂田留三郎
陶器商 桂田留三郎(海の見える杜美術館蔵)

20151106ホンモノ ニセモノ 炭薪売捌問屋 国松松之助
炭薪売捌問屋 国松松之助(海の見える杜美術館蔵)

栖鳳の名前が記された2枚の引札には、文字が印刷されていませんし、裏には商品番号のようなものが捺印されているので、引札の商品見本、あるいは後から名前を入れる名入れ引札のようです。

20151106ホンモノ ニセモノ《龍虎図》裏      20151106ホンモノ ニセモノ 《旭日青竹清流に虎》裏
《龍虎図》(裏)   《旭日青竹清流に虎》(裏)

明治時代の終わり、あるいは大正時代の初めごろ、きっとこの引札に商店名を印刷してお得意様に配って回ったお店があったはずです。

そしてこの引札をもらった人は、好きなところに貼っては眺めて、栖鳳の絵を飾った気分になれたのかもしれません。

 

ちなみに、栖鳳は絵を複製することに積極的な人でしたから、本物の複製版画もあります。
ところがこだわり抜いて作った複製版画の中には、あまりに精巧で、美しすぎて、本物の“作品”として出回ってしまう事もあります。

20151106ホンモノ ニセモノ  《海の幸》
《海の幸》(海の見える杜美術館蔵)

これは複製版画です。
部分を拡大してみても、とても版画とは思えない美しさです。

20151106ホンモノ ニセモノ 《海の幸》部分
《海の幸》(部分)

 

さち

青木隆幸

森下麻衣子さま

とても興味深い展覧会ですね・・・・って、
その展覧会あと3日しかないじゃないですかぁ・・・。
これからもっと早く書いてください!!

徳川美術館・蓬左文庫開館80周年記念秋季特別展
茶の湯の名品
11月8日(日)までですので、お見逃しなく。

「刀剣乱舞」いいですよね。
麻衣子さん、当館の作品はゲームキャラクターになりませんか?
そうだ! NTさん、Webページ作ってくれてるけど、ついでにゲームの自主制作ってできない?

うみひこ

名古屋 美術館めぐり①

1ヶ月も前の美術館鑑賞についての報告を今するのも…といった感じなのですが、名古屋にある徳川美術館と愛知県美術館に行きました。

1つめにご紹介するのは現在徳川美術館で開催されている「茶の湯の名品」展。
大学院時代の後輩が「初めて担当した展覧会が始まった」と連絡してきてくれたので、それは見に行かないといけないよな、と思いまして(義理堅い性格ゆえに)、お邪魔してきました。

結論から言って、とっても見ごたえのある素晴らしい展示でした。
まず目に入るのが「君台観左右帳記(くんたいかんそうちょうき)」。室町時代の、お茶席等の会所の飾り方を書いたものです。これにより、室町時代の美意識がわかります。「わび」「さび」など、簡素な印象がある室町のお茶の世界ですが、結構もりだくさんに色々飾っていたんですよ。
今回、第一室はできるだけ「君台観左右帳記」の飾り方にならって展示したとのこと。なので、貴重な台(作品)の上にこれまた貴重なお茶碗をおく、なんてところも見られるのです。とっても雰囲気のある展示になっています。
展示方法もひっくるめて徳川美術館の魅力なんですね。

ブログ原稿20151104名古屋 美術館めぐり㈰ 画像1
こちらは図録。表紙のような展示が本当に見られます!

歴代の将軍が好んだお茶道具をその人ごと並べて展示する部屋もあり、私のようにお茶の世界になじみの無い人間にもとても親しみやすい展示でした。
なにより後輩が頑張っている姿にとても元気づけられました。先輩も頑張るわ…今休館中だけど。
こちら、11月8日までの展示となっています。お近くの方もそうでない方も是非!

余談ですが、後輩と会ってお話する時間があまりなくて、肝心なことを言い忘れました。
最近、「刀剣乱舞(通称とうらぶ)」という刀を擬人化したシミュレーションゲームに徳川美術館の所蔵の日本刀「鯰尾藤四郎」が出ているのですが、私はそれがうらやましくてならない。
「所蔵作品がイケメンに擬人化されてしかもそれに人気声優が声をあてるなんていーなーっ!」…先輩としてこのことを本当は伝えたかった。
…まさか刀が擬人化されてゲームになるとはな~。うらやましぃぃいーっ!きーっ!

 

名古屋美術館めぐり②愛知県美術館編に続く!!

作品の素材調査

作品の素材調査は、研究の基礎となる大切な仕事です。

現在、東京芸術大学 文化財保存学専攻のチーム(木島隆康教授、桐野文良教授、稲葉政満教授、塚田全彦准教授、半田昌規非常勤講師、大久保早希子助手)と共同で、海の見える杜美術館の、とある重要な作品群の素材分析を手掛けています。

20151105作品の素材調査

1) 各種光による撮影(可視光、赤外光、紫外線蛍光)
2) 支持体の材質調査ならびに技法の調査:高分解能光学顕微鏡
3) 彩色材料の調査:蛍光X線分析ならびに複合X線装置、可搬型FTIR

を手始めに行いました。

作品数も多く、息の長い調査になりますが、発表できる時期が来ましたら、また改めてご報告いたします。

 

うみひこ

「一宮の文人 野村一志と土田麦僊をめぐる画家たち」展が開催中です

愛知県の一宮市三岸節子記念美術館にて、「一宮の文人 野村一志(いっし)と土田麦僊をめぐる画家たち」展が開催されています。当館所蔵の土田麦僊作品、書簡類も出品されていますよ。
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とても心惹かれる展覧会だったので行ってきました!

展覧会名にある、野村一志とは誰ぞや?という方もいらっしゃるかと思います。
彼は、愛知県一宮に、明治から昭和にかけてお住いだった呉服商さんです。そして、自ら俳句をたしなむ風流人でした。
彼は土田麦僊をはじめとする画家たちと多く交流しました。この展覧会は、彼らの交流によって育まれた芸術を、作品と書簡で紹介するというもの。
作品が生まれたとき、画家たちがどんな人たちと何を考えていたか、何を見たのか。ともすれば見落としてしまう、画家の生身の人間としての部分をダイレクトに感じられる展示です。是非多くの方に見ていただきたいです。

小野竹喬《海島》(笠岡市立竹喬美術館蔵)などの見ごたえのある大作も圧巻でしたし、一宮にかつてあった大きな芥子畑に、麦僊や福田平八郎ら多くの画家たちが訪れた、というエピソードとともに紹介された芥子の作品もとても興味深かったです。今はないというその花畑にしばし思いを馳せました。どんな景色だったんだろな?

そして書簡。
土田麦僊、石崎光瑤、吹田草牧ら、画家たちの書簡の数々が展示してありました。並べて見ると画家の個性が見えて楽しいです。全部保管していたなんて、一志は本当に几帳面な方です。

ちなみに、麦僊からの手紙が一番多くて、その数なんと292通(今回は一部を展示)!これらを保管していた一志の几帳面さもさることながら、送る麦僊の筆まめさにも驚きです。麦僊は結構話を聞いてもらいたいタイプの人だったのでしょうか?もしも麦僊にスマホを持たせたら大変かもしれません。LINEでメッセージをものすごい勢いで送ってくる麦僊を想像してしまう。
でも、それだけの書簡を大切に残していたのも、一志が麦僊との交流を誇りにしていたからこそ。これらの書簡のうち262通、そして書簡を書き写したノート(!)4冊は縁あって当館が所蔵しておりますが、今後も大切に保管していかねばと思います。

展覧会に出ている当館所蔵の作品は、前半(10月3日~11月1日)は《雪旦図》《雛之図》の2点。
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↑展示状況。(許可をいただいて撮影いたしました)

後半(11月3日~11月23日)は《獅子図》《蓮花》の2点が出品されます。
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余談ですがこの《獅子》、京都の養源院にある、俵屋宗達が描いた板絵の獅子にポーズがよく似ています。実物を見てまねしたのかな?

何はともあれ、お近くの方もそうでない方も、「一宮の文人 野村一志と土田麦僊をめぐる画家たち」展をどうぞご覧ください!

一宮市三岸節子記念美術館
一宮の文人 野村一志と土田麦僊をめぐる画家たち
前期 2015年10月3日~11月1日
後期 2015年11月3日~11月23日