春色の遊歩道と次回展のチラシ

一年で最も彩り豊かになる季節、春。

 

杜の遊歩道ではツバキ、コブシ、サクラ等の花たちがいっせいに開花し始めています。

 

ツバキ201903287 ツバキ

 

コブシ 20190328 コブシ220190328 コブシ1

 

サクラ20190331 サクラ20190330 サクラ1

 

こちらはいたるところに出没するムスカリ。20190328 ムスカリ2 20190328 ムスカリ1

なんとも可愛らしいです。

 

 

またシャトル乗り場のプランターも賑わっています。20190328 プランター

太陽の光を思う存分浴びた植物たちは、

 

真新しい葉と花びらをキラキラと輝かせながら成長しています。

 

そんな春色に染まりつつある杜の遊歩道を横目に、

 

当館では次回展覧会のチラシが完成いたしました。

菅井汲チラシ

「生誕100年記念 菅井汲 -あくなき挑戦者-」

 

会期:2019年5月25日(土)~2019年7月21日(日)

 

もうじき皆様のお手元にお届けいたしますので、

 

いましばらくお待ちくださいませ。

 

A.N

第7回 香水散歩 フランス
グラース国際香水博物館 後編

表紙

こんにちは、クリザンテームです。前回に引き続き、今回もグラース国際香水博物館での香水散歩が続きます。

順路に沿って展示室を巡る間、ひときわ感慨深く拝見した一連の展示品がありました。

おそらく作品保存上の理由でしょう。ほの暗い照明の下、ひっそりと展示されているのですが、引き出し式ケースにおさめられた皮手袋を見落とすわけにはいきません。というのも、それは、グラースが香水の町となった機縁を物語るからです。

手袋

かつてグラースは、高品質のなめし皮の産地として何世紀にもわたりその名を知られる存在でした。なめし皮には独特のあまり好ましくない匂いがつきものです。そこで考案されたのが、香り付きの皮革製品でした。

そもそも皮革製品に香りを付ける伝統は、アラブに由来し、スペイン経由でヨーロッパに伝えられたものです。香り付き皮革製品は、当然パリでも生産されていましたが、南仏に位置するグラースは花々の大規模栽培に成功したため、香りつきの皮革製品、とりわけ香り付き手袋でグラースが名を馳せるようになったのです。

展示室の片隅にさりげなく置かれた皮手袋に、この町の歴史が詰まっているのですね!

今日のグラースは、世界に名だたる調香師と香水を輩出し続けています。博物館には、そのようなお土地柄ならではの、香りそのものを楽しめる仕掛けが数多くあるので、童心に戻りワクワクしてしまいます!

例えば、こちらはボタンを押すと、その香りが噴射される機械。クリザンテームは、その日、鼻の調子があまりよろしくなかったのですが、博物館へ向かう道すがら、通りの薬局で求めた天然ハーブ鼻スプレーのおかげで、すっかり調子を取り戻し、様々な香りを楽しむことができました。

ネロリの甘やかな香りが漂ってきました!

ネロリの甘やかな香りが漂ってきました!

でも自然に囲まれたグラースにせっかくいるのですもの、天然の香りも味わいたいわ……という望みも、博物館は叶えてくれます。前編でお伝えした中庭の他にも、本格的なハーブガーデンを有する空中庭園を備えているのです。

そのハーブガーデンへと通じる廊下の壁には、天然香料が展示されています。

香料の先に、ハーブガーデンが垣間見えるとは、なんと洒落た演出!

香料

そしてこちらが、ハーブガーデン入り口です。

ガーデン入り口

ハーブガーデンは温室エリアと、屋外エリアに分かれています。そのいずれからも、周囲の歴史ある街並みが同時に楽しめます。

ガーデン屋外

ガーデン屋外

温室の壁には、香料となる植物の世界分布図が。勉強になります!

世界地図
各植物の説明も詳細で、これまた勉強になります!

例えば、こちらはタイム。香りの特徴はもちろんのこと、シャネル社「アンテウス」、ケンゾー社「ケンゾー プール オム」等、香料として使われた香水名まで記されています。
タイム

温室

芳香を味わいながら、香りの歴史や今日の使われ方を深く知ることができる博物館の訪問を終えて、グラースが私の中でさらに特別な町となりました。

クリザンテーム(岡村嘉子)

 

◇ 今月の香水瓶 ◇

HXVIII045_2

ケース付き《香水瓶》フランスまたはスイス、1785年頃、透明ガラス、金、七宝

、海の見える杜美術館所蔵

 

 

 

 

 

 

 

 

INTOJAPANで「幸若舞曲と絵画」展をご紹介頂きました

小学館が発行する雑誌「和樂」のWEBメディア、INTOJAPANで「幸若舞曲と絵画」についてとりあげていただきました。「オススメ展覧会7」として掲載されています。

編集部厳選! 2019年3月に見逃したくないオススメ美術展10選

さすが和樂のウェブマガジン。展覧会を巡る旅に出たくなります。どの記事も魅力的で、デザインもとてもすてきです。ぜひご覧ください。

谷川ゆき

「幸若舞曲と絵画—武将が愛した英雄たち」展、はじまりました。まずは会場の様子をご報告します。

先週土曜日、3月2日から春期特別展が始まりました。週末の雨の中お出かけくださった皆様、ありがとうございました。金箔をふんだんに使った色鮮やかな作品がたくさん展示された今回の展覧会、なかなか豪華なものになりました。といいながら出し惜しみするようですが、まず今日のブログでは、展覧会の作品以外の見所についてご紹介します。

ポスターやチラシ、図録の表紙には《曽我物語図屏風》(渡辺美術館所蔵)の右隻、源頼朝の一行が富士の巻狩に臨む場面を使わせていただきました。さすがは桃山時代にさかのぼる曽我物語絵の名品、チラシのポップなデザインに負けない風格で、目にするたびに作品の力強さを感じさせます。

チラシと図録

 

美術館のエントランスホールには、幸若舞曲の物語の中でめざましい活躍を見せる「武将が愛した英雄たち」を6人ピックアップしてバナーにしました。右から源頼朝、曽我兄弟の弟五郎時致、義経の母常盤御前、曽我兄弟の兄十郎祐成、源義経、平敦盛です。エントランスホールのバナー

 

さて、今回の展覧会、ぜひ注目していただきたいのが、エントランスホールの横、1階のエレベーターまでのスペースです(展覧会会場は2階)。今回初公開となる、海の見える杜美術館所蔵の《夜討曽我絵巻》を大きく拡大して、長い廊下の壁面を絵巻に見立ててみました。いずれも第1巻から、向かって右手の壁は巻狩に向かう源頼朝一行と富士山麓の雄大な風景、左手の壁には頼朝が富士の巻狩の様子を描いた場面をとりました。《夜討曽我絵巻》は、幸若舞曲の曽我物の中でも人気の一曲「夜討曽我」を9巻の絵巻にした作品。通常は1枚〜2枚の挿絵で描かれる「富士山麓で頼朝が開催した巻狩」というモチーフを、この絵巻では実に1巻を丸々費やして描きます。左の壁面にあげた狩の場面は、絵巻の実寸で約9メートルにもおよび、この廊下の壁には収まりきりませんでした。展覧会では、前期(4月7日(日)まで)は富士山の場面を、後期(4月9日(火)から)は狩の場面を展示いたします。

右手の壁には、端に頼朝一行を小さく、富士山麓の景観を雄大に描きます。

右手の壁。端に頼朝一行を小さく、富士山麓の景観を雄大に描きます。

左手の壁。狩場では種々の獲物が追われます。かわいらしい兎や猿も。

左手の壁。狩場では種々の獲物が追われます。かわいらしい兎や猿も。

古美術の展示は作品保護のため残念ながら照明の明るさを落とさなければなりません。そして絵巻の画面は縦30〜40センチほどと小さく、もっと明るいところで近くで見てみたい!という欲をかきたてます。広々とした富士山麓の風景と、にぎにぎしい活気に満ちた狩の様子。印刷ではありますが、実際よりもずっと大きな画面で、絵巻ならではの横長の画面を存分に生かした絵の面白さを味わっていただければと思います。

「幸若舞曲と絵画」展は5月12日(日)まで、二ヶ月ちょっとの会期です。ぜひお早めにどうぞ!空気もだんだんと春らしく緩んで、遊歩道の河津桜は9分咲きの見頃を迎えています。展覧会とあわせてお楽しみください。

 

谷川ゆき

 

第6回 香水散歩 フランス
グラース国際香水博物館 前編

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こんにちは、クリザンテームです。

香水の歴史を知るために、雨空や曇り空が続く冬のパリから、南仏の避寒地コート・ダジュールへとやってまいりました。地中海に面したカンヌやニースから小高い山間部へとのぼると、近代香水発祥の地である小さな町グラースがあるからです。

そのあちらこちらには、香水の研究所や香水専門店、そしてもちろん博物館があり、少し足を延ばして郊外へといけば、グラースの豊かな歴史を支え続ける数々のお花畑があります。それらの写真を見るにつけ、またこの地で数々の香りを嗅ぐにつけ、今回は時期がかなわなかったものの、次こそはラヴェンダーの季節に戻ってこようとの思いが強まります。

グラースには、香水に関する博物館がいくつもあるのですが、まずはもっとも規模の大きい国際香水博物館をのぞいてみました。

エントランスを抜けると、巨大な香水工場に入ったような内装に驚かされます。

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と思うと、邸宅のような建物に迷い込んだり……

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と思うと、冬の果実が彩る、魅力的な中庭に不意に行き当たったり……(あれ!?外に出てしまった?)

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この階段はのぼるべきか否か……また迷子になりそうな予感と好奇心の狭間で悩みます。

この階段はのぼるべきか否か……また迷子になりそうな予感と好奇心の狭間で悩みます。

展示室の次なる扉を開けると、思いもよらぬ空間が待っています。いくつもの建物が連結した広大な博物館内は、入り組んでいるのですね。なにしろ、エントランスと出口も違うほどですので、方向音痴のクリザンテームには大変です!

 

さて、展示室の構成は、海の見える杜美術館の常設展示室同様、古代エジプトから現代までの香りの容器が時代と地域ごとに分類展示されています。順路が正しく辿れた暁には(!)、香りの悠久の歴史を辿ることができるでしょう。

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順路に沿って、古代から……

香りの器がずらりと並ぶ古代ギリシャ・ローマ展示室。

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18世紀展示室では、これこそ究極のネセセールのひとつと、つい言いたくなるような作品が見られます。象牙製ケースにおさめられた、マリー=アントワネットの旅行用ネセセールです。

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20世紀は、社会の大きな出来事の記述ともに、なんと一年毎に代表する香水瓶が展示されています!

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順路通りに辿れず、戻ってしまった時代の展示室では……

まあ!とても親近感の湧く二つの香水瓶が! このように海杜のコレクションのお仲間たちもこちらでは多数発見できます。その相違を確かめるのもまた楽しみのひとつですね。

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次回の後編では、グラース香水博物館の調香に関する展示室や、皮手袋について取り上げます。香水散歩をまたご一緒にお楽しみくださいませ。

 

クリザンテーム(岡村嘉子)

◇ 今月の香水瓶 ◇

HXVIII048  HXVIII001

《セント・ボトル》イギリス、セント・ジェイムズ1760年頃 右《双口セント・ボトル》イギリス、セント・ジェイムズ1755年頃、ともに海の見える杜美術館所蔵

 

 

 

 

 

 

 

西山翠嶂展のみどころその2

長い長いと思っていた(実際に長いのですが)西山翠嶂展も、そろそろ終わりが見えてまいりました。しかし2018年が終わることのほうを先に話題として挙げるべきですね(この原稿を書いているのは12月28日です)。2018年は当館にとってはリニューアルオープンという一大イベントがあった年でした。それなりに密度が濃い1年で長く感じたからでしょうか、うっかり「リニューアルしたのは去年じゃなかったっけ?」と思いそうになります。

 

リニューアル以来、「香水瓶の至宝展」「西南戦争浮世絵展」「西山翠嶂展」と3つの展覧会を開催してまいりましたが、3年間の休館を体験した私から申しますと、展覧会を開催して作品を見ていただける、感想をいただけるというのは非常にありがたいことです。

 

特に西山翠嶂の下絵は、当館の蔵に長らく眠っていたものですが、ずっと皆様に見ていただきたいと思っていたコレクションでしたので、このたびの展覧会で「おもしろい!」「西山翠嶂ってやっぱりすごい!」「こんな画家がいたなんて」などなどの感想をいただけていることを、本当にうれしく思っております。

 

さて。

展覧会のみどころとして紹介するのはちょっと違うかもしれませんが、やっぱりご紹介しておきたいのが図録です。

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表紙の画像は広島県尾道市、生口島にある耕三寺博物館様がご所蔵の西山翠嶂作品《乍晴乍陰》(1929年(昭和4))です。滋賀県の瀬田にある唐橋という橋を俯瞰して描いた作品で、晴れから雨への気候の変化、橋の上を行き交う人々の様子をこまやかに描き出しており、何度見ても見飽きることのない名品です。おかげさまで本当に素晴らしい表紙になりました。

どなたかにこの図録をお見せするときは、だいたいまず表紙を自慢しますね。たまに事務所でも他の学芸から「いい表紙だね~」と言ってもらってご満悦です。今も手にとってしみじみと眺めています。

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…表紙の素晴らしさばかりを力説してしまいましたが、開いても図版がたくさん載った充実の内容となっております。展覧会に出した作品はもちろんのこと、当館が所蔵する翠嶂の下絵や模写をすべて載せました。また、現存している作品も可能な限り掲載いたしました。翠嶂はこんなに素晴らしい作品をこんなに描いたのか、と驚いていただけるのではないかと思っております。さらに、作品の落款・印章(画家のはんことサインですね)も載せています。

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西山翠嶂《馬》(1939年(昭和14)、京都市美術館蔵)と、韓幹《照夜白》(メトロポリタン美術館蔵)や李公麟の《五馬図巻》との関連について述べた論文も掲載しています(私の論文ではありませんが)。

 

会場でもテラスでもお読みいただけるのでよかったらぜひお手にとってご覧くださいませ。

 

今年の夏の記憶があまりないな~と思っていたのですが、この図録を作っていたからなんですね。いや~、充実したいい年でした。

今年も大変お世話になりました。当館に来て下さった皆様、ブログを見てくださっている皆様、どうぞよいお年をお迎えください!

 

森下麻衣子

第5回 香水散歩 パリ装飾美術館
「ジャポニスムの150年」展

パリ

こんにちは、クリザンテームです。

今回は再びパリから最新情報をお届けします。 本年2018年は、日本とフランスにとって、交流160周年という記念の年です。この春、当館で開催された「香水瓶の至宝展」のチラシの片端にも、小さくそのマークが記されているのはお気づきになられましたか?

香水瓶ちらし表紙

↑ここです!

↑ここです!

パリ装飾美術館、ミュージアムショップのショー・ウィンドウもジャポン一色!

パリ装飾美術館、ミュージアムショップのショー・ウィンドウもジャポン一色!

今年2018年のフランスでは、各地で関連イベントが行われています。伝統芸能や現代演劇の野田秀樹や宮本亜門演出作品の上演や講演会等々、華々しい催しが盛りだくさんですが、もちろん美術館も例外ではありません。

魅力あふれる数多の展覧会の中でも、私が最も楽しみにしておりましたのは、11月中旬からパリ装飾美術館で始まりました「ジャポニスムの150年」展です。

貴重なパリ万博資料をはじめ、パリ装飾美術館や国立ギメ東洋美術館等のフランスの美術館が所蔵する日本美術コレクションや、日本美術に影響を受けたフランス人芸術家の作品、さらには現代日本の工芸品やドレスなどが、2000㎡を超える展示会場に陳列されています。約1400点というその膨大な出品点数たるや、どれほどのものであるのかがおわかり頂ける画像がこちらです。

展示室

展示室2

このような展示室がいくつも続きます! 一点一点をじっくりと見る場合、期間中に何度も足を運ばなくては、すべてを見終えられないでしょう。

そこで訪問第1回目は、限られた時間の中で、主要作品を中心に展示全体を見ようと努めました。とはいえ、当館所蔵の香水瓶でも人気の高い、宝飾デザイナーのリュシアン・ガイヤールが手掛けたかんざしは、その美しさに思わずため息が出て、時間を忘れて拝見してしまいました。

アール・ヌーヴォーを代表する芸術家として名を馳せたガイヤールは、植物の表現が実に巧みです。

リュシアン・ガイヤール《かんざし、スピノサスモモの花》1904年頃、べっ甲、ダイヤモンド、金、銀、パリ装飾美術館蔵

リュシアン・ガイヤール《かんざし、スピノサスモモの花》1904年頃、べっ甲、ダイヤモンド、金、銀、パリ装飾美術館蔵

こちらは、当館所蔵のヤグルマギクをモチーフにした、リュシアン・ガイヤールが手掛けた香水瓶。クラミー社、デザイン1913年。

こちらは、当館所蔵のヤグルマギクをモチーフにした、リュシアン・ガイヤールが手掛けた香水瓶。クラミー社、デザイン1913年

本展覧会は、その斬新な展示方法でも、学芸員としてはメモをとることしきりでした。例えばこちらはクリザンテーム、つまり「菊」をモチーフにした作品の展示室。展示台がアヴァンギャルドですね。

展示室3

まるで展示台が浮いているようです!

私が美術館を訪れたのは、来館者が比較的少ない平日の昼下がりでした。展示室を巡っていると、お話好きなパリジェンヌたちに何度も話しかけられました。そして、その度ごとに、ついつい長話……。本展覧会の訪問第1回目の時間は、あっという間に過ぎていきました。

しかしながら、美術鑑賞を通じて互いが身近に感じられる、日仏交流160周年という特別な年を満喫いたしました。

思いがけないちょっとしたおしゃべり、長い年数をかけて使用するからこそ起こる数々の故障類……、何をするにも予想外に時間がかかる、このフランス時間が、ときに人生には必要なのかもしれませんね。

 

クリザンテーム

 

この季節にぴったりの松かさをモチーフにしたデザイン。 リュシアン・ガイヤール《香水瓶、松かさ》1913年頃、ニース・フロール社、海の見える杜美術館所蔵

この季節にぴったりの松かさをモチーフにしたデザイン。
リュシアン・ガイヤール《香水瓶、松かさ》1913年頃、ニース・フロール社、海の見える杜美術館

季刊誌「Promenade Vol.28」情報

12月に入り、寒さも本格的になってまいりました。

杜の遊歩道では、黄色だったタイワンフウが燃え上がるように紅く染まり、

空と美しいコントラストを作り上げています。

紅葉はまだしばらくお楽しみいただけそうです。

20181205 タイワンフウ

2018113001

 

また、現在開催中の企画展「西山翠嶂~知られざる京都画壇の巨匠~」も

早いもので折り返しへと差し掛かっております。

さて、このたび、当館発行の季刊誌「Promenade Vol.28」冬号が完成いたしました。

現在の香水瓶展示室や、西山翠嶂展の魅力をご紹介する

凝縮された1枚となっております。

PromenadeVol.28-1

PromenadeVol.28-2

A.N

2019年春の特別展「幸若舞曲と絵画―武将が愛した英雄たち」の予告です①

2019年3月2日から開催される、春季特別展「幸若舞曲と絵画―武将が愛した英雄たち」にむけて、目下準備を進めています。

展覧会タイトルの「幸若舞曲(こうわかぶきょく)」という言葉、ご存知の方は少ないかもしれません。幸若舞曲とは、南北朝時代に始まり、室町時代から江戸時代初期にかけて流行した芸能で、幸若舞(こうわかまい)とも呼ばれます。源平合戦のエピソードや、源義経を主人公とした「判官(ほうがん)物」、曽我兄弟の仇討の顛末を伝える「曽我物」など、平安時代末〜鎌倉時代初の武将の活躍を語る演目が多く、戦国武将たちにも大いに愛好されました。織田信長の幸若好きはよく知られていますし、豊臣秀吉も信長に続いて幸若大夫(たゆう。幸若の語り手)に知行を与えています。江戸時代に入ると能とともに幕府の式楽(幕府の儀式に用いられる音楽や舞踊)に採用されるなど、当時の武士たちのたしなみのひとつでした。名称には「舞」とありますが、動きよりもむしろ、面白い物語を良い声で歌うところに妙味があったようです。残念ながらその人気はやがて衰え、幕末には一度途絶えてしまいます(現在は福岡県のみやま市で幸若舞保存会によって復興され、国の指定重要無形民俗文化財に指定されています)。そのためか、現代の我々にとっては、能や歌舞伎、浄瑠璃など他の芸能に比べて馴染みのないものになってしまいました。

展覧会では幸若舞曲の演目を主題に描かれた屏風や絵巻・絵本の作品をご覧頂きます。特に江戸時代初期、17世紀に多くの作例があり、いかにこの主題が人気だったかを伺わせます。

ブログでは、展覧会の公開に先立って幸若舞曲の内容や作品の見どころを書いていきますので、ご興味持っていただけたらうれしいです。とはいえ、幸若舞曲と言われてもあまりピンと来ない方が大多数だと思います。まず今回は幸若舞曲を少しだけ身近に感じて頂ければと思い、信長の幸若舞曲愛好を伝えるエピソードをご紹介します。

永禄三年(1560)、信長は大軍を率いた今川義元を相手に劣勢に立たされます。5月19日明け方、さらに二つの砦が落とされたという報に接した信長は、「人間五十年、化天(げてん)のうちをくらぶれば、夢幻(ゆめまぼろし)のごとくなり」と、「敦盛(あつもり)」の一節を舞った後、ただちに寡兵を率いて出陣します。桶狭間の戦い直前のこの有名なエピソードは『信長公記』(1600年頃成立。信長の入京から本能寺の変までの出来事を記述)に記されています。司馬遼太郎の『国盗り物語』がとりあげ、また、市川雷蔵主演「若き日の信長」(1959年)や、黒澤明監督「影武者」(1980年)などの映画で映像化されました。テレビの時代劇や大河ドラマにもこの場面はよく登場しますので、ご覧になったことがある方も多いのではないでしょうか。

さて、これらの映画やドラマで信長を演じる俳優さんたちは、ほぼ決まってこの一節を能の仕舞のように謡い舞うのですが、実はこの有名な一節、能ではなく、幸若舞曲なのです。

能にも、幸若舞曲にも、源平合戦で命を落とした悲劇の若武者、敦盛について語る「敦盛」という曲があります。

敦盛を呼び止める直実 《平家物語扇面画帖》(海の見える杜美術館所蔵)より

敦盛を呼び止める直実 《平家物語扇面画帖》 江戸時代・17世紀(海の見える杜美術館所蔵)より

一の谷の合戦に敗れた平家の敦盛はひとり逃げ遅れます。これを源氏の武将、熊谷直実(くまがいなおざね)が呼び止めて討ち取ろうとしますが、敦盛が自分の息子と同じ年の若者であることを知り、助けたくなるのです。しかしここで平家の武者を助けては自分が裏切り者と謗られてしまうというジレンマの中で、涙をのんで敦盛を殺し、直実はこの出来事を機に出家します。能も幸若も粗筋は同じですが、直実が出家を決意した時の台詞「人間五十年、化天の内を比ぶれば、夢幻(ゆめまぼろし)のごとくなり、一度生を受け、滅せぬ物のあるべきか」、つまり信長が口にした一節は、能の「敦盛」には存在せず、幸若舞曲の「敦盛」からとったものです。

高野山で出家を遂げる直実

高野山で出家を遂げる直実 《舞の本絵本》のうち「敦盛・下」 江戸時代・17世紀(海の見える杜美術館所蔵)

義元の大軍に挑むその直前にこの一節をうたった信長の心情はどのようなものであったのか、思わず想像してしまいますね。同時に幸若舞曲の節がいかに信長の身に馴染んだものであったのかが伺えます。他にも、徳川家康を安土に迎えた際に信長が幸若と能を上演させたという記録や、または家康自身が戦場に大夫を同行させた記録が残るなど、幸若舞曲は戦国武将たちのごく身近にあったようです。大夫に上演させてそれを楽しんだり、あるいは自身が折にふれて口ずさんだりしながら、命を散らす古の英雄たちの境遇に、明日をも知れぬ戦いのさなかにある自分たちを重ねていたのでしょうか。

幸若舞曲は芸能として成熟する中で演目の数を絞り、特に人気のあった36曲の演目が、江戸時代寛永年間(1624〜1645)に『舞の本』として挿絵入りで出版されます。この版本をもとに、大変豪華な絵巻や絵本が作られました。当館所蔵の《舞の本絵本》や、アイルランドのチェスター・ビーティ・ライブラリィ等が所蔵する《舞の本絵巻》、日本大学図書館所蔵の《幸若舞曲集》などがそれにあたります。これらはいずれも松平家などの大名家が発注、所蔵したものと考えられています。戦国時代が終わり、江戸の世も落ち着きを見せ始めた時期、大名たちは武士としての自分たちのアイデンティティの証として、古の英雄の活躍を語り、往年の戦国武将たちに愛された幸若舞曲を、絵巻や絵本のかたちで手元に置きたかったのでしょう。

展覧会では幸若舞曲の世界を、絵を通して楽しんでいただければと思っています。今後のブログでも、面白い物語や、特に見ごたえのある作品などご紹介していきます。

谷川ゆき

【2019年春期特別展 幸若舞曲と絵画—武将が愛した英雄たち】

■期  間 2019年3月2日(土) 〜 5月12日(日)

■開館時間 10:00-17:00 (入館は16:30まで)

■休  日 月曜日、4月30日(火)、5月7日(火) ※ただし4月29日(月・祝)、5月6日(月・祝)は開館

■入  料 一般¥1,000 高・大学生¥500 中学生以下無料 *障がい者手帳などをお持ちの方は半額。*介添えの方は1名無料。20名以上の団体は各200円引き。

■主  催 海の見える杜美術館

■会  場 海の見える杜美術館(広島県廿日市市大野亀ヶ岡701)

■後  援:広島県教育委員会、廿日市市教育委員会

西山翠嶂展のみどころ その1

こんにちは、ご無沙汰しております。

 

10月27日より西山翠嶂展が始まり、はや1ヶ月が経とうとしております。

西山翠嶂とは、京都・伏見に生まれ、竹内栖鳳に弟子入りし絵画を学んだ日本画家です。展覧会で入賞を重ね、画家としての確固とした地位を築き、京都市立美術工芸学校および同絵画専門学校の校長や官展の審査員などの要職を務めたほか、多くの弟子を育てた近代の京都画壇において重要な画家です。

ただ、「知られざる京都画壇の巨匠」というサブタイトルをつけさせていただいたことからもおわかりになるように、彼の師・竹内栖鳳や、土田麦僊ら彼の弟弟子たちと比較してみても、もっともっとこれから知られていくべき画家です。

 

さて、今回の展覧会は、その知る人ぞ知る京都画壇の巨匠、西山翠嶂が描いた名品の数々をご覧いただけるまたとない機会です。

展覧会で、翠嶂という画家の魅力を知っていただきたいと思っておりますので、遅ればせではございますが、このブログでも展覧会について、翠嶂についてご紹介していきたいと思います。

 

 

 

まず、この展覧会の大きな見どころとしまして、「大下絵」があります。

5.採桑 大下絵

《採桑 大下絵》 1914年(大正3)頃

 

落梅

《落梅 大下絵》 1918年(大正7)頃

 

これらは、文部省美術展覧会(通称・文展)に出品した作品のための大下絵(原寸大の画稿)です。ただ、《採桑》も、《落梅》も、完成作品がどこに所蔵されているのか、今も現存しているのかどうかが分かっておりません。ですので、現在、西山翠嶂という画家を知る上でこれらの画稿はきわめて貴重な資料となっています。

 

下絵といえども、翠嶂作品の持つ豊かな詩情は充分に味わっていただけることと存じます。特に女性の腕やほほの線の美しさなど、ぜひゆっくりご覧いただいきたいです。

 

実は私が翠嶂という画家をとりあげてみたいと思ったきっかけは、これら下絵を見たことに始まりました。「ああ、こんなみずみずしい素晴らしい作品を描いた画家がいたのか」と、数年前に思い、多くの方にこの画家の魅力を知っていただきたいと思い、展覧会の準備をすすめてきました。

 

このたびの展覧会のため、財団紙守さまに修復を行っていただきましたので、上の写真よりもさらにきれいになってごらんいただけるようになっております!

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作品保護のため、照明は少し暗めではありますが、たくさんの作品をゆっくりご覧いただけるように展示しております。この展覧会で一人でも多くの方に翠嶂作品の魅力を知っていただければ幸いです。

 

 

森下麻衣子