うみもり香水瓶コレクション3
キャロン社「シャントクレール」のための
香水瓶

こんにちは。クリザンテームこと、特任学芸員の岡村嘉子です。空に浮かぶ雲の形や風の匂い、虫の音が変化し、日一日と秋らしくなるのを感じると、私はこれから出合う芸術への期待で胸が高鳴ります。秋の夜長の友として、どのような文学を今宵は選びましょうか――。おりしも、現在当館では、日本の古典文学を彩る歌仙たちの肖像を描いた歌仙絵の展覧会「歌仙をえがく―歌・神・人の物語」展が開催中です。

そこで今回のうみもり香水瓶コレクションは、芸術の秋に相応しい文学にちなんだ香水瓶をご紹介いたします。 こちらです👇シャントクレール

香水瓶《標石》キャロン社「シャントクレール」1906年、透明ガラス

デザイン:アンリ・アム及びフェリシ・ベルゴー 1906年、海の見える杜美術館所蔵

CARON, CHANTECLER -1906, PERFUME BOTTLE, Transparent glass, Design by Henri HAMM and Félicie BERGAUD-1906, Umi-Mori Art Museum, Hiroshima

 

1906年発売のキャロン社の香水「シャントクレール」のためにデザインされた本作品は、一見するとごくありふれた香水瓶ですが、ぜひ金色のラベル部分にご注目ください。雄鶏が刻まれていますね。

 

PCA001(ラベル部分)

このモデルとなったのは、フランス中世文学作品のひとつ『狐物語』に登場する、狡賢いキツネに一矢報いた雄鶏シャントクレールです。内容が滑稽味溢れるものであったことも影響したのでしょうか、『狐物語』は、フランスはもとよりヨーロッパ諸国にも写本によって広く親しまれました。その影響は大きく、18世紀末には、ゲーテがこの物語集から着想を得た『ライネケ狐』を執筆したほどです。

ところで、シャントクレールという名前には、フランス語で、澄んだ声で(クレール)歌う(シャント)という意味が隠されています。それは、歌によって夜明けを知らせる鳥である鶏のイメージと重なります。香水瓶に祝祭のように明るく華やかなイメージを求めたデザイナーのフェリシ・ベルゴーにとって、まさにぴったりのイメージソースであったといえるでしょう。

また、この香水瓶の発売と前後して、『シラノ・ド・ベルジュラック』の作者、エドモン・ロスタンも雄鶏が活躍する戯曲『シャントクレール』を執筆し、パリでの上演で好評を博していたことも見逃せません。

雄鶏は、フランスの国鳥でもあります。香水瓶の発表当時、ドイツと緊張関係にあったフランスの人々は、高らかに歌う国鳥をモティーフにした本作品や文学によって、愛国心を募らせたのかもしれませんね。

はるか中世の写本の世界についても、18世紀末のドイツ文学についても、20世紀初頭のヨーロッパの情勢についても、おおいに物語ってくれる香水瓶です。

岡村嘉子(クリザンテーム)

 

 

「歌仙をえがく—歌・神・人の物語—」展がはじまりました

9月5日から「歌仙をえがく」展が始まりました。

「歌仙(かせん)」とはいささか耳慣れない言葉でしょうか。古来宮廷文化を支えた和歌は、そもそもは単なる文芸ではなく、神仏と人のコミュニケーションを司る神聖な役割をそなえたことばでした。そのような和歌に長けた歌人達は歌仙とよばれ、尊敬を集め、時に信仰の対象となりました。歌仙たちは平安の雅を伝える存在として、和歌とともにしばしば絵に描かれ、その肖像は「歌仙絵」と呼ばれます。

この展覧会では、海の見える杜美術館の所蔵品のなかから江戸時代の作例を中心に、絵に描かれた歌仙たちの姿をご紹介します。

今回、展覧会のポスターやチラシには、土佐光起が描いた《三十六歌仙画帖》をデザインしました。土佐光起(1617〜91)は、宮廷絵所預として活躍した江戸時代のやまと絵を代表する絵師のひとり。王朝の雅を伝える歌仙を描くにふさわしい絵師と言えるでしょう。

土佐光起《三十六歌仙画帖》のうち、「小野小町」江戸時代 海の見える杜美術館のコピー

土佐光起《三十六歌仙画帖》のうち、「小野小町」 江戸時代・17世紀 海の見える杜美術館

この図のように、歌仙の名前と和歌を書いた色紙と、歌仙の肖像が組み合わされています。

土佐光起《三十六歌仙画帖》0024 小野小町・絵

鮮やかな色彩と繊細な筆致が魅力です。

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会場にも同じ光起の作品を配しました。写真は1階エントランスの様子。

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1階の廊下には、みなさんもきっと名前や和歌を聞いたことがある有名な歌仙5名を選んで大きく引き延ばしました。柿本人麻呂、小野小町、在原業平、紀貫之、斎宮女御です。光起の作品自体は本当に小さいのですが、ここでは歌仙を1メートル以上の大きさに。細かい着物の模様や、繊細な線を間近にご覧いただけます。ぜひ会場でお楽しみください!

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向かい側にはやはり光起の《三十六歌仙画帖》を用いて、三十六歌仙(平安時代の貴族藤原公任が撰んだ歌の名手36人)の和歌と略歴を紹介するパネルを設けました。お気に入りの歌仙を見つけてみてください。

まだ日中は残暑が続きますが、朝や夕方は杜の遊歩道も歩きやすい季節になりました。海杜テラスから見る宮島は秋の空に映えて今日も見事です。初秋の一日、海の見える杜美術館で、平安の雅を伝える華やかな歌仙絵と、美しい自然を満喫する時間をぜひお楽しみください。

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