「大坂屋清兵衛(大清)」の引札

羽前米沢粡町の大坂屋清兵衛の引札があります。
商っている商品は小間物と書籍のようです。

2021-003-16「萬小間物書肆舗(丸に太)羽前米澤粡町 大坂屋清兵衛」

明治時代の羽前米澤粡町(あらまち)は、現在の山形県米沢市中央3・4・5丁目の間の粡町通りを中心とした地域です。

中村清治編『粡町史』(粡町協和会 1942)には、粡町には1000年を超える歴史があり、米沢のなかで最も繁栄した商家町であったことが記されています。また、その町史には大坂屋清兵衛についての記述もあり、まず文化8年(1811)の地図の粡町上通り西側の清兵衛の表記、そして弘化3年(1847)、明治12年(1879)、昭和16年 (1931)の地図において、小間物屋の大坂屋清兵衛(中村清兵衛)から始まり、金物商 大清 中村清兵衛として同地で発展しながら敷地を拡大していることがわかります。また、明治11年(1878)に洋灯(ランプ)を始めて米沢に移入して販売した人物としても紹介されています。そのランプを一目見ようと近隣からたくさんの人たちが大坂屋清兵衛の店に集まったそうです。(同書114頁)

ここまでこの引札に記された「大坂屋清兵衛」のことを追ってまいりましたが、調べて見ましたら、山形県米沢市でNo1の配管資材、建設資材のプロショップとして現在も同地で株式会社 大清として営業されていることがわかりました。元禄元年(1688)創業以来、今年で実に333年になる老舗中の老舗です。

この引札は、今からおよそ140年前、小間物屋から次第に事業を拡大し、洋灯(ランプ)の販売を誰よりも先駆けて米沢で販売を始めたころ、年の瀬に配布して店の宣伝に努めたものです。その後も事業を伸張させ、現代まで続いていることに思いをいたすと、とても感慨深いものがあります。

恐れながら14代目当主 中村友彦氏にご連絡差し上げ、この引札が間違いなく同社配布のものであることをご確認いただき、また諸事ご教示いただきますとともに、諸資料のご提供と使用許可をいただきました。

現在は同地に大きなビルが建ち、中には資料室も設けられています。現社屋 資料室1 資料室2 資料室店舗復元1 明治史料1明治史料2

この引札は、今日から開催する以下の展覧会に出品いたします。
株式会社 大清の140年前のチラシをぜひ直接ご覧ください。

【展覧会名】 引札 新年を寿ぐ吉祥のちらし
【会  期】 2021年11月27日(土)〜2021年12月26日(日)
【休 館 日】月曜日
【会  場】 海の見える杜美術館(広島県廿日市市大野亀ヶ岡10701)

 

 

ちなみに、この引札の1年違いの見本が残されています 。明治15年の略暦と見本番号と代金「ヌ印 壱円七十銭」が添えられているので、少し考えてみますと、明治15年の貨幣価値は、白米10キロ82銭 、日雇い労働者の日当22銭 ですから、仮に1円を現在の貨幣価値5,000~10,000円ぐらいとするなら、ここに記された価格は100枚当たりの金額なので1枚当たりおよそ85~170円ということになります。大阪屋清兵衛はこの引札の見本を見て、購入を決め、空欄に自分の店の名前を印刷してなじみのお客様に配布したのです。

引札明治15年

 

青木隆幸

うみもり香水瓶コレクション14 キャロン社《プール・ユンヌ・ファム》

こんにちは。特任学芸員の岡村嘉子です。ご好評を頂いている秋季の企画展「美人画ラプソディ・アンコール――妖しく・愛しく・美しく」も、まもなく会期終了を迎えようとしています。前回のブログ「うみもり香水瓶コレクション」では、企画展のテーマのひとつ「女の装い プラス・マイナス」(女性が身繕いをしている姿やそれを解いた姿をとらえた作品群)にちなみまして、「番外編 フランス」と題し、スキャパレリ社《ショッキング》を取り上げました。今回はその続きで、この機会にぜひお目にかけたいキャロン社の香水瓶をご紹介いたします!

こちらの香水瓶です。👇

プール・ユンヌ・ファム

キャロン社 、香水瓶《プール・ユンヌ・ファム》デザイン:フレデリコ・レストレポ、2001年、透明クリスタル、リボン、製造:バカラ社 海の見える杜美術館CARON, POUR UNE FEMME WITH ITS CASE Design by Frederico RESTOREPO -2001, Transparent crystal, ribbon, Umi-Mori Art Museum,Hiroshima ©海の見える杜美術館、Umi-Mori Art Museum,Hiroshima

今回も女性のボディをかたどった香水瓶です。前回の《ショッキング》と並べてみると、その相違がわかりますね!

左:スキャパレリ社 、香水瓶《ショッキング》デザイン:レオノール・フィニおよびピエール・カマン、1937年、透明ガラス、彩色ガラス、海の見える杜美術館RENE LALIQUE, SHOCKING FLACON Design by Leonor FINI and Pierre CAMIN  -1937, Transparent glass , color glass, Umi-Mori Art Museum,Hiroshima ©海の見える杜美術館、Umi-Mori Art Museum,Hiroshima

スキャパレリ社《ショッキング》は、巻き尺が首にかけられた仕立て用ボディが表現されており、鮮やかな色合いと花々の装飾も相まって、華やいだ雰囲気に満ちています。この香水瓶からは「これからどんな素敵なドレスに仕上がるかしら?」と目を輝かせる女性の顔が浮かんでまいります。

一方、キャロン社《プール・ユンヌ・ファム》では、体型にぴったりと合ったドレスを纏い、三面鏡の前に立つ全身像が表現されています。ここでは、「今夜はどんな楽しいことがあるかしら?」という期待に胸をはずませつつも、決してそれだけではないように思えます。鏡の前では、パーティの装いの最終チェックを欠かさない女性の真剣かつ冷静なまなざしをも浮かんでくるのです。三面鏡を配した2001年の限定エディション用の専用ケースが、香水瓶単体では紡ぎ得なかった物語を語っているかのようです。

ところで、私はこの香水瓶を初めて目にした時に、思わずうなり、感嘆してしまいました。それはひとえに、香水瓶の構造に起因しています。香水瓶のキャップが、思いがけないところにあったのです。

皆様は、どちらにキャップがあるかおわかりになりますでしょうか? スキャパレリ社《ショッキング》とは反対に、ドレスの足元、つまり瓶の底に配されているのです。これは香水瓶の歴史において、大変珍しい形です。ここにはどのような意味が込められているのでしょうか?

プール・ユンヌ・ファム3

👆この部分です!©海の見える杜美術館、Umi-Mori Art Museum,Hiroshima

一般的に、レディの装いは常に何かを付け加えていくこととで完成します。ドレスを一枚纏えば、それに合う手袋やジュエリーを着け、場合によっては帽子やティアラ、髪飾りを頭部に頂きます。そして香水は装いの仕上げとして用いられてまいりました。こうして近代以降、ドレスと香水は切っても切り離せない関係にあったのですが、《プール・ユンヌ・ファム》ではそう単純な話ではないようです。なにしろ、香水を使えば使うほど、ドレスに見立てられた香水は減っていってしまうのですから! 大事なドレスは静かに足元の方へと次第に下がっていき、最終的にはすっかり脱げてしまうのです。

しかしそれは決して悲しいことではないでしょう。なぜならドレスを脱いで、生来の姿となった先にあるのは、ドレスが体現していた社会的役割や経歴――あるいはときに虚飾の混じる世界――から解き放たれて、ただ一個の、今を生きる裸の人間になることです。そのありのままの姿となった女性は、なんと気高く美しいのでしょう。

話を冒頭に戻しますと、前回と今回のテーマは「女性の装い プラス・マイナス」です。ドレスを纏い、鏡の中の自分を真剣に見つめていた女性は、装いを解いた自らの姿をも、勇気をもって冷静に直視し、受け入れることでしょう。マイナスがもたらす美が表現されたこの香水瓶に、私は21世紀の知性ある美しき女性像を見る思いがするのです。

岡村嘉子(クリザンテーム)