梅は、春の訪れをいち早く知らせる花として、好んで描かれました。当館の所蔵作品にも梅を主題とする作品は数多くありますが、今回はその中でも、歌川広重の《梅に文鳥》をご紹介いたします。
画面の左右には冬の寒さにさらされた古枝と、青々とした新梢が対比的に配され、厳しい冬と遠からず訪れる春が、暗に示されます。
そしてこの絵に添えられているのは、誹諧師として著名な宝井其角(1661〜1707)が詠んだ「なつかしき 枝のさけめや 梅の花」の一句。あたかも古枝にとまる文鳥の心持ちを述べているかのようです。
この作品は、現在800点ほどが確認される広重の花鳥画の中でも、最も初期に描かれた作品のひとつです。花鳥を描いた浮世絵師はあまたいますが、広重が特に際立っているのは、絵と歌とが響き合う、詩意あふれる独自の世界を築き上げた点にあります。すぐれた花鳥画家としての広重の出発点といえるのが、本作といえます。
さて、この絵の主題であるハクバイは、現在杜の遊歩道でも目にすることができます。
こちらは八重咲きのハクバイです。
これから春の訪れとともに、枝を覆うように花が咲いていきます。
もりひこ