正倉院寳物古裂類臨時陳列目録 陳列期限大正14年 奈良帝室博物館

図書の整理をしていると、縦15センチ2ミリ、横10センチ7ミリ、厚さ3ミリほどの、小さな目録が目にとまりました。
20160523正倉院寳物古裂類臨時陳列目録 陳列期限大正十四年四月十五日ヨリ同年四月三十日マテ 奈良帝室博物館-2
表紙に、「正倉院寳物古裂類臨時陳列目録 陳列期限大正十四年四月十五日ヨリ同年四月三十日マテ 奈良帝室博物館」と、記されています。
20160523正倉院寳物古裂類臨時陳列目録 陳列期限大正十四年四月十五日ヨリ同年四月三十日マテ 奈良帝室博物館 (1)
これは、正倉院の繊維工芸品が史上初めて一般公開された※1展覧会の記念すべき目録です。
いまでは毎年20万人以上の動員を記録する「正倉院展」、その第1回展「正倉院御物特別拝観」奈良国立博物館1946年(昭和21)※2をさらに21年さかのぼる、1925年(大正14)に開催されているのですね※3

1914年(大正3)に奈良帝室博物館正倉院掛が開始し、100年たった今も終わらず継続している正倉院伝来品の整理、公開事業。
この目録を目にしたとき、関係の皆様が、史料を修復、保管、研究、公開という博物館の基本的な使命※4を100年変わらず守り続け、日本人のアイデンティティーそして文化経済価値をも高めて国際競争力の原動力となっていること、また、国際的な平和の礎となる多様な文化理解の一助となっていることを感じ、あらためて畏敬の念に打たれました。

ところで、うみもり所蔵の「正倉院寳物古裂類臨時陳列目録」には、いろいろな鉛筆の書き込みのほか、以下のように赤字で修正が記され、慶應義塾大学様ご所蔵の「正倉院寳物古裂類臨時陳列目録」※5では、すべて修正されています。

20160523正倉院寳物古裂類臨時陳列目録 陳列期限大正十四年四月十五日ヨリ同年四月三十日マテ 奈良帝室博物館 (2)20160523正倉院寳物古裂類臨時陳列目録 陳列期限大正十四年四月十五日ヨリ同年四月三十日マテ 奈良帝室博物館 (3)20160523正倉院寳物古裂類臨時陳列目録 陳列期限大正十四年四月十五日ヨリ同年四月三十日マテ 奈良帝室博物館 (4)20160523正倉院寳物古裂類臨時陳列目録 陳列期限大正十四年四月十五日ヨリ同年四月三十日マテ 奈良帝室博物館 (5)20160523正倉院寳物古裂類臨時陳列目録 陳列期限大正十四年四月十五日ヨリ同年四月三十日マテ 奈良帝室博物館 (6)20160523正倉院寳物古裂類臨時陳列目録 陳列期限大正十四年四月十五日ヨリ同年四月三十日マテ 奈良帝室博物館 (7)20160523正倉院寳物古裂類臨時陳列目録 陳列期限大正十四年四月十五日ヨリ同年四月三十日マテ 奈良帝室博物館 (8)(写真はすべて うみもり所蔵本)

また、うみもり所蔵本には表紙に「正倉院掛」という奈良帝室博物館の一部署の印が押され、発行年など奥付がありませんが、慶應義塾図書館様の本にはきちんと奥付がついていて、受入時の日付「大正14年5月7日」と寄贈者名「奈良帝室博物館」が記された寄贈印が残されています。そのように見てくると、慶應義塾図書館様の本は完成した本で、うみもり所蔵本は奈良帝室博物館関係者旧蔵の校正用の本という事になるようにも考えられました。

しかし、まだよくわからないことがあります。
慶應義塾図書館様の本に貼られている正誤表の箇所が、うみもり所蔵本では間違っていないこと。
慶應義塾図書館様の本もうみもり所蔵本も、正誤表自体に間違いがあります。相当慌ただしく作ったのでしょうか。
慶應義塾図書館様の本の印刷発行日が、展覧会開催初日になっています。開催初日に刷り上がったのでしょうか。
いつか誰か研究してはっきりさせてくれることを願ってやみません。

さち

青木隆幸

(1) 尾形充彦「正倉院の染織品の整理」『正倉院紀要』27号 宮内庁正倉院事務所 2005年3月
(2) 2016年の今年は10月下旬から第68回「正倉院展」が開催予定
(3) ウィキペディアの「正倉院」項、8正倉院展、には「染織品の展覧は、1924年(大正13年)4月に奈良帝室博物館で大規模な展示があり」とあるが「1925年(大正14年)」の誤りか
(4) 「正倉院御物棚別目録」帝室博物館1925年10月26日(国立国会図書館蔵) 凡例に「一 本目録は宝庫拝観者のために、大正13年11月現在をもって、各棚、箱、棚外に別ち、御物の品目を列記す。」と記されている
(5) 慶應義塾図書館様ご所蔵の「正倉院寳物古裂類臨時陳列目録」がgoogle booksで公開されている