「幸若舞曲と絵画—武将が愛した英雄たち」展、はじまりました。まずは会場の様子をご報告します。

先週土曜日、3月2日から春期特別展が始まりました。週末の雨の中お出かけくださった皆様、ありがとうございました。金箔をふんだんに使った色鮮やかな作品がたくさん展示された今回の展覧会、なかなか豪華なものになりました。といいながら出し惜しみするようですが、まず今日のブログでは、展覧会の作品以外の見所についてご紹介します。

ポスターやチラシ、図録の表紙には《曽我物語図屏風》(渡辺美術館所蔵)の右隻、源頼朝の一行が富士の巻狩に臨む場面を使わせていただきました。さすがは桃山時代にさかのぼる曽我物語絵の名品、チラシのポップなデザインに負けない風格で、目にするたびに作品の力強さを感じさせます。

チラシと図録

 

美術館のエントランスホールには、幸若舞曲の物語の中でめざましい活躍を見せる「武将が愛した英雄たち」を6人ピックアップしてバナーにしました。右から源頼朝、曽我兄弟の弟五郎時致、義経の母常盤御前、曽我兄弟の兄十郎祐成、源義経、平敦盛です。エントランスホールのバナー

 

さて、今回の展覧会、ぜひ注目していただきたいのが、エントランスホールの横、1階のエレベーターまでのスペースです(展覧会会場は2階)。今回初公開となる、海の見える杜美術館所蔵の《夜討曽我絵巻》を大きく拡大して、長い廊下の壁面を絵巻に見立ててみました。いずれも第1巻から、向かって右手の壁は巻狩に向かう源頼朝一行と富士山麓の雄大な風景、左手の壁には頼朝が富士の巻狩の様子を描いた場面をとりました。《夜討曽我絵巻》は、幸若舞曲の曽我物の中でも人気の一曲「夜討曽我」を9巻の絵巻にした作品。通常は1枚〜2枚の挿絵で描かれる「富士山麓で頼朝が開催した巻狩」というモチーフを、この絵巻では実に1巻を丸々費やして描きます。左の壁面にあげた狩の場面は、絵巻の実寸で約9メートルにもおよび、この廊下の壁には収まりきりませんでした。展覧会では、前期(4月7日(日)まで)は富士山の場面を、後期(4月9日(火)から)は狩の場面を展示いたします。

右手の壁には、端に頼朝一行を小さく、富士山麓の景観を雄大に描きます。

右手の壁。端に頼朝一行を小さく、富士山麓の景観を雄大に描きます。

左手の壁。狩場では種々の獲物が追われます。かわいらしい兎や猿も。

左手の壁。狩場では種々の獲物が追われます。かわいらしい兎や猿も。

古美術の展示は作品保護のため残念ながら照明の明るさを落とさなければなりません。そして絵巻の画面は縦30〜40センチほどと小さく、もっと明るいところで近くで見てみたい!という欲をかきたてます。広々とした富士山麓の風景と、にぎにぎしい活気に満ちた狩の様子。印刷ではありますが、実際よりもずっと大きな画面で、絵巻ならではの横長の画面を存分に生かした絵の面白さを味わっていただければと思います。

「幸若舞曲と絵画」展は5月12日(日)まで、二ヶ月ちょっとの会期です。ぜひお早めにどうぞ!空気もだんだんと春らしく緩んで、遊歩道の河津桜は9分咲きの見頃を迎えています。展覧会とあわせてお楽しみください。

 

谷川ゆき