ツバメのヒナ part2

皆様こんにちは。

前回の記事でご紹介しましたツバメのヒナは、あっという間に育ち、

今にも飛び立ちそうなほどに成長していました。
(前回の記事「ツバメのヒナ」はこちら)

20190709 ツバメ120190710 ツバメほんの一週間前とは見違えるほど、顔も色も大きさも変わり、

巣の中では場所の取り合いをしているようでした。

20190709 ツバメ3

現在開催中の菅井汲展が閉幕する頃には旅立ちそうです。

この子たちが巣立っても、今度は次回展「美術の森でバードウォッチング」で

たくさんの鳥を描いた作品が展示されます。

その中にはツバメの作品もあるとか。

楽しみにお待ちください。

A.N

菅井汲の版画

海の見える森美術館では、7月21日(日)まで「生誕100年記念 菅井汲 —あくなき挑戦者—」展を開催しています。

本展覧会は、パリを拠点に活動した日本人画家・菅井汲の版画作品にスポットをあて、同館所蔵のコレクション約100点を展示するものです。今回は、それらを4つの時期—渡仏初期の日本的主題を取り入れた繊細なタッチの作品、1960年代の明快な色彩で幾何学的な形を描いたダイナミックな抽象作品、1970年代のほぼ円と直線のみで構成される規格化されたモチーフを主体にした作品、晩年の「S」字シリーズ−に分けて章を構成しています。

菅井汲については当館のホームページの展覧会紹介ページをご覧ください。
http://www.umam.jp/exhibition20190525.html

今回は菅井汲と版画のことについて紹介したいと思います。

菅井汲は1952年の渡仏から1996年に亡くなるまで、大型の油彩やアクリル画に制作の主体を置いていましたが、その一方で数多くの版画作品を手がけていました。その数は400点以上に及び、版画は彼の画業を語る上で無視できないものとなっています。

彼と版画の出会いは1955年のことで、当時契約していたクラヴァン画廊の勧めで《DIABLE ROUGE(赤い鬼)》という作品のリトグラフを制作したのが最初といわれています。その背景には、前年(1954年)に同画廊で開かれた個展が大きな反響を呼び、彼が忽ち売れっ子の画家となったことで、彼の作品に対する需要が高まり、供給が追いつかなくなったことがあったようです。

UMAM赤い鬼 海の見える杜美術館 
《DIABLE ROUGE(赤い鬼)》 1955年 リトグラフ

そのようなきっかけで始めた版画ですが、結果的に彼は亡くなるまでの40年以上にわたりその制作に携わることとなりました。菅井は版画について「版画の魅力はスピード感である」と語っており、タブロー(絵画)や立体作品と違って気軽に制作に取りかかれ、自分の自由で無責任な思いつきを比較的短時間で実現できるものとして、版画の制作に力を注いでいました。彼は版画の個展を頻繁に行い、国際版画展にも何度も出品していました。そして彼の版画はそれらの国際展で受賞を重ねるなど高い評価を得ていました。需要を満たすための苦肉の策として制作を始めた版画ですが、菅井の考えをそのまま表現するには最も適したメディアであったのでしょう。

ツバメのヒナ

皆様こんにちは。

今年も、軒先に巣を作っていたツバメのヒナがすくすくと成長しています。

20190704 ツバメ2この光景も、ここ数年はすっかり毎年恒例になりつつあります。

(昨年の記事「軒先のツバメ」はこちら)

 

20190704 ツバメ1親ツバメを待つ間の顔が、なんとも愛らしいです。

 

 

さて、現在開催中の菅井汲展も、早いもので後半期へと入りました。

今展に合わせて作成したブックレットは、

A5のコンパクトサイズに菅井の版画作品の魅力を

ギュッと凝縮した一冊となっています。

菅井汲1

いつでもどこでも菅井の作品を眺めることが出来ますので、

ご来館の際には、是非お手に取ってみていただければと存じます。

展示スペースの都合上、陳列をしていない作品も本ブックレットには掲載しておりますので、そちらも併せてお楽しみください。

また、ご来館のお客様より、展覧会をご覧になった後に

「力強さを感じた」「まとまった作品を見たのは初めてだったので良かった」

等のお声を頂いており、受付・総務としても一スタッフとしても嬉しい限りです。

今後とも、作品の魅力を最大限にお伝えできるよう、スタッフ一同精進してまいります。

菅井汲展は今月21日(日)まで開催しています。

A.N

第9回 香水散歩 フランス
グラース・プロヴァンス美術歴史博物館

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こんにちは、クリザンテームです。

グラースでの香水散歩も、いよいよ終盤になってまいりました。今回は、約100年前にあたる1921年に、元大統領の子息とグラース最大の香水製造会社の令嬢との結婚がきっかけとなり創設された、プロヴァンス美術歴史博物館を訪問いたします!

香水散歩でご紹介してきた多くの美術館と同様、この美術館もまた、邸宅を改装したものですが、ここでは各居室に、建造時の18世紀の暮らしを彷彿とさせる内装が復元されています。それはさながらインテリア博物館とでも名付けたくなるようなもので、ここでは美しい調度品に囲まれたプロヴァンス貴族の往時の生活を見ることができるのです。

そのため館内を歩いていると、ここに暮らすマダムやムッシューと今にも行き合いそうな錯覚を覚えます。ですから、まさにここで、フランス国営テレビの人気ドラマの撮影が行われたことも納得してしまいました。

では、その優美な館内の見学をするといたしましょう。

1階の玄関ホールを抜けると、まず大広間が現れます。
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南仏の光に映える、鮮やかな若草色の壁紙に目が奪われます。

そこに配されているのはプロヴァンス産の高級家具。他の地方産の家具に比べて、明るい色合いの木材を使った、簡素ながらもエレガントな曲線を描く家具の数々です。

この邸宅が建てられたのは、1769年のこと。施主のプロヴァンス貴族のクラピエ=カプリ侯爵夫妻は、南仏で最も優雅な邸宅を目指し、ミラノ出身の建築家にこの館を設計させました。当時ここには、特別に誂えたパリの高級家具師による調度品も配されていたといいます。残念ながらそれらはほとんど散逸し、現在は17世紀から19世紀までのプロヴァンス家具を中心に構成されています。しかし結果的にはそのおかげで、パリやボルドー、リヨン等、他の地方の装飾美術館では味わえない、プロヴァンス家具の独自性を堪能することができるのです。
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大広間の両脇には、いくつも居室が連なります。比較的簡素な家具に比べて、カーテンをはじめとする布地の柄が、また鮮やかで愛らしいこと! しかも居室ごとに微妙に異なる(その細やかな違いを探すのもまた楽しい)、趣向を凝らしたプロヴァンスの布地が用いられています。

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「あら、もうこんなお時間!? まだ午前中かと思っておりましたのに……」いえいえ、こちらは時計ではありません。18世紀につくられたルイ15世様式の気圧計兼温度計です。このような当時の最新機器があるのも、この館に相応しいですね。IMG_3966

そして子供部屋には、愛嬌のある目をした木馬が置かれていました。よく見ると、尻尾までボンボンのお飾りが!しかもカーテンの色合いと調和しています。IMG_3965

このほか、1階にはバスルームやキッチンがあり、2階、3階へと上がれば、考古学から絵画、宗教美術、陶器、さらには照明器具などがまとめて展示され、プロヴァンスの長い歴史を知る最適の場所となっています。IMG_3978

なかでも、クリザンテームがこの美術館の面白さを感じるのは、都市の貴族生活だけではなく、土に根差した農民の姿をも同時にわかることです。

とりわけプロヴァンス・ワイン展示室では、道具とともに製造作業を伝える記録写真が展示されていて、深く印象に残りました。

例えば、ブドウ収穫に使う籠とともに、収穫時の写真(1944年)が。ブドウ籠

拡大すると……ブドウ摘み

大人も子供も一家総出で、さらに収穫を手伝いにくる季節労働者も一緒になってブドウを手摘みしています。彼らの表情のなんと晴れやかなこと!

お次は、なにやらみんなで楽しそうに絞っていますね。IMG_3974拡大

彼らのこの表情――フレッシュで気取りがなくて温かみがあって――は、まさにプロヴァンス産ロゼ・ワインの味わいと重なります。今後はワインを頂くたびに、これらが蘇りそうです。

お次は、ところ狭しと並んだブドウの入った瓶、そしてそこに話しかけるように水を注ぐおじいさん(しかもジャン・コクトー似!)。IMG_3975

愛情をこめて農作業に勤しむプロヴァンスの暮らし。グラースの香水も、このような土地から生まれたと思うと、いとおしさを一層感じました。

クリザンテーム(岡村嘉子)

《今月の作品》
海杜 籠

こちらは苺がいっぱいに詰まった籠。《セント・ボトル》イギリス、チェルシー、1755-58年、海の見える杜美術館所蔵。

海杜 ブドウ摘み

本ブログ2回目の登場ですが、陽気にブドウを摘む彼女を今回は外せませんね。《セント・ボトル》イギリス、セント・ジェイムズ1760年頃、海の見える杜美術館所蔵。

 

 

もうすぐ満開のアジサイ(紫陽花)

皆様こんにちは。

例年では梅雨の時期にあたりますが、いまだ梅雨入りはしておらず、

遊歩道散策には心地良いこの頃です。

杜の遊歩道では紫陽花が花を咲かせつつあります。

紫の濃淡のグラデーションで彩られた花びらの美しさは、

思わず見入ってしまうほどです。

20190613 アジサイ1 20190613 アジサイ2 20190613 アジサイ3

紫陽花ロードの満開はまだまだこれからですので、どうぞお楽しみに。

20190618 アジサイ1

 

さて、早いもので現在開催中の菅井汲展も中盤に差し掛かってまいりました。

今月のイベント情報のお知らせです。

【当館学芸員によるギャラリートーク】

日時:6月29日(土)

時間:13:30~(30分程度)

参加費:無料(ただし入館料は必要です)

◎事前申し込み不要

学芸員の解説とともに、

新しい表現に挑戦し続けた菅井の版画の数々をお楽しみください。

A.N

菅井汲展開催中

皆様こんにちは。

早くも6月を迎え、2019年も折り返しに入っていることに驚きを隠せません。

杜の遊歩道では紫陽花が咲き始めていました。

20190606 アジサイ3 20190606 アジサイ1まだまだ花もまばらですが、もう間もなくしたらきれいな花道を作ってくれるでしょう。

見頃はもう間近です。

 

さて、5月25日(土)より、令和初の展覧会、

「生誕100年記念 菅井汲 -あくなき挑戦者-」 を現在開催しています。

画家・菅井汲の生誕100年を記念して、

渡仏後から晩年までの約40年間に制作された、当館所蔵の版画コレクションを展示しています。

菅井は数々の国際展で受賞するなど、大きな成功をおさめましたが、

それらの評価に満足することなく、常に新たな絵画に挑み続けました。

そんな彼の作風の変遷を当館所蔵の版画作品を通じて辿ります。

展覧会に合わせてブックレットを作成しましたので、

そちらも併せてお楽しみください。

菅井汲1 菅井汲2

菅井汲展は7月21日(日)まで開催いたします。

A.N

第8回 香水散歩 フランス
グラース・フラゴナール香水博物館 

 

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こんにちは、クリザンテームです。今回もグラースでの香水散歩が続きます。なにしろ、世界の香水製造の中心地たるグラースには、その豊かな文化を物語る史跡や美術館が目白押しなのです。

今回訪れたのは、フラゴナール香水美術館です。

「フラゴナール」の名を聞くと、18世紀フランスの宮廷画家でグラース出身のジャン=オノレ・フラゴナールを、真っ先に思い出される方がいらっしゃるかもしれませんね。かくいう私もその一人でした。フラゴナールの父は、宮廷における手袋と香水の責任者でありました。この美術館を運営するのは、1926年創業の南仏を代表する香水製造会社フラゴナール社。その社名は、絢爛たるフランス宮廷文化を彩った、フラゴナール一家にちなんでつけられたものなのです。

フラゴナール社の製品は、南仏らしい明るい色彩を多用した、フランスのエスプリ溢れるパッケージ・デザインやグッズでも知られ、パリのサン=ジェルマン・デ・プレやオペラ、ルーヴル美術館カルーセル店をはじめとするフランス各地のブティックは、いつも多くの女性たちで溢れています。

社はまた、その豊かな香水瓶コレクションも名高く、グラースとパリにそれぞれ美術館を持っています。

こちらはパリのフラゴナール香水美術館。

パリ2

そして、こちらがグラースの香水美術館入り口。

入り口

入り口2

両館とも、古代から現代までの膨大な香水瓶コレクションが年代順に陳列されていて、香水瓶の歴史を一望できる作りとなっていますが、その楽しみ方は少し異なっています。

パリの美術館は解説者つき見学が主であるのに対し、グラースでは、来館者の心の赴くまま自由に見られます。またグラースの展示空間は、個人の邸宅に招かれたかのような設えであることも、楽しみの一つでしょう。そのおかげで、より寛いだ気持ちでコレクションを味わえるのです。

例えば、こちらは古代世界の香水瓶展示室。シックな壁色にシャンデリアが映えますね。

内部1

壁の色は、各時代に合わせて塗り分けられています。その色合いのセンスが、また秀逸。

日が射し込んだときのワインボトルのようなライムグリーンや、鮮やかなカシス・レッド、はっとするようなモーヴ色など、これぞフレンチ・シック!とつい言いたくたるような、ニュアンスのある色たちが、各時代の雰囲気を伝え、また美術館全体の印象をさらに強めています。

内部2

こちらは、香水のラベルと香水製造機械の展示。

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こちらは多種多様なポマンダーがずらりと陳列されています。海の見える杜美術館のお仲間たちがここでも見出せました!

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キャビネットを中心に、古代エジプトのアラバスター製容器、古代ギリシャのアリュバロス、ルネサンス以降のポマンダー、17世紀以降のガラス製、18世紀以降の陶器製やクリスタル製の香水瓶、ネセセール……と歴史を代表する名品が展示されているのですが、クリザンテームがとりわけ注目したのは、グラースならではの芳香容器「ベルガモット」のコレクションです。

こちらです!

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「ベルガモット」とは、18世紀、グラースで栽培された、ミカン科の香木ベルガモット(紛らわしいですね!)の樹皮で作られた小箱です。掌サイズの箱には、優しい色合いのテンペラ画が施されています。アールグレイを淹れると、にわかにふわっと立ち上る、柑橘系のあの芳香がする小箱たち。生活におけるなんと洒落た演出なのでしょう!

画像を拡大して見ると……

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18世紀、グラースのブルジョワ階級の人々にとってベルガモットは欠かせないものでした。彼らはこの中に、キャンディ、嗅ぎ煙草、アクセサリー、ちょっとした思い出の品といった、思い思いの品をおさめていました。技を極めた職人の作る貴重な材の香水瓶もいいものですが、このような樹皮製の小箱も、生活が垣間見えるようで面白いですね。

ちなみに、デメル社やドゥバイヨル社などの、乙女心が刺激される愛らしい図柄のチョコレートの空き小箱を捨てられずに、ついついちょっとした小物を入れしまうクリザンテームは、18世紀のグラースの人々に勝手に親近感が湧いてしまいました!

さて、この美術館の独自性はこれだけではありません。地階において、香水の製造工程の解説ツアーが定期的に催されているのです。

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ずらりと並んだ蒸留器などの機械を前にして聞く解説が、また面白いのです。

男性用香水と女性用香水の成分の違いや、工程に要する時間など、知っていそうで実はよく知らない情報を、丁寧に教えて頂きました。

最後は、ミュージアムショップで、見学の余韻を味わいながら、フラゴナール社の製品選びを楽しみました。

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ふと気づくと、窓の外に夕闇が迫っていました。

クリザンテーム(岡村嘉子)

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◇ 今月の香水瓶 ◇

ポマンダー

 

《ポマンダー》ドイツ、アウグスブルグ、1700-1720年頃、銀、銀に金メッキ、七宝、海の見える杜美術館所蔵

 

 

 

 

 

 

 

 

花盛りの遊歩道

新学期が始まって早一ヶ月。

本日より新しい時代がスタートしますが、皆様はいかがお過ごしでしょうか。

“平成”から“令和”へと移り変わるという瞬間。

日本中がソワソワしている中でも、杜の遊歩道では変わらず静かに、

そして堂々と、花々が咲き誇っています。

一歩足を踏み入れてみると、今が花盛りとばかりにたくさんの花々が出迎えてくれます。

20190420 ツツジヒラドツツジ

20190428 アヤメアヤメ

20190428 コデマリ コデマリ

20190428 フジフジ

このように自然に囲まれた海の見える杜美術館周辺では、

現在ツバメたちがにぎやかに飛び回り、巣作りに勤しんでいます。

巣作りの合間の休憩でしょうか、柵にとまっている姿をよく見かけます。

20190424 ツバメ1ミュージアムショップの窓より撮影

ツバメをそっと見守るのに、 ミュージアムショップの窓がベストポジションです。20190424 ツバメ2ツバメをはじめ、当館のまわりにはたくさんの小鳥がいて、

元気よくさえずっています。

野鳥観察がお好きな方にもおすすめです。

今年8月3日(土)からは、鳥に関係する特別展「美術の森でバードウォッチング」を

開催する予定ですので、そちらもどうぞお楽しみにお待ちください。

A.N

ソメイヨシノ(染井吉野)からヤエザクラ(八重桜)へ

朝夕はまだほんの少し肌寒いものの、

日中は上着が必要なくなるほど暖かくなったこの頃。

杜の遊歩道では今年も桜が見事です。

ソメイヨシノは例年より長く咲き、みずみずしい青葉に変わると

これからのヤエザクラと良いコントラストになります。

DSC_0217DSC_0184DSC_0189 DSC_0123

 

そして今も色鮮やかに花開いている梅林のゲンペイモモや、20190409 ゲンペイモモ2 20190409 ゲンペイモモ1

 

 

美術館へと続く坂道途中のヤエザクラの花など、20190416 ヤエザクラ1 20190416 ヤエザクラ2

まだまだこれから多くの花をお楽しみいただけます。

お散歩には最適のこの季節。

杜の遊歩道へ足を運んでみてはいかがでしょうか。

A.N

「幸若舞曲と絵画」展、展示替えをします

早いもので気がつけば4月。杜の遊歩道の桜も満開を迎えようとしています。

さて、展覧会「幸若舞曲と絵画」も会期半ば。8日の休館日に展示替えをいたします。

 

出品される作品は変わりませんが、絵本のページをめくり、絵巻を巻き替え、前半とは違う場面をお見せします。前半はこの土日が最期です。

 

今回の展覧会の見所のひとつである、海の見える杜美術館所蔵の《舞の本絵本》は、幸若舞曲の人気の演目三十六番を47冊の絵本のセットに仕立てた作品です。詞書(文字の部分)には華やかな装飾が施され、絵のページにも上下に金箔の霞が配され、高価な顔料が惜しむことなく使われていて、大変豪華な作り。一見して格の高い大名家など、限られた層の人々の持ち物であったと想像されます。実際に、各冊には「游焉館図書」の印が捺され、この本が游焉館、つまり府内藩の江戸末期の藩校の所蔵であったことが知られ、豊後松平家(大給家)の持ち物であったものが府内藩藩校に移管されたと想定されるのです。

 

海杜本《舞の本絵本》の他にも、アイルランドのチェスター・ビーティ・ライブラリィ等が所蔵する《舞の本絵巻》や、日本大学図書館が所蔵する《幸若舞曲集》(本展覧会で展示中です)など、同じ『舞の本』をもとにした絵巻のセットが作られていたことが知られています。

 

海杜本は(多少異同がありますが)三十六番が揃った希有な作例で、今回の展覧会では、その三十六番47冊を一挙公開しています。

 

とはいえ絵本ですので、すべてのページを一度にお目にかけることができずに残念なのです。三十六番、それぞれのお話の名場面を少しでも見て頂きたい!というわけで、今回は作品の保護もかねて、会期の半ばでページを替えて、違う場面をお見せします。

 

たとえば、兄頼朝に追われた源義経とその郎党の最期を語る「高館」。現在は、義経らが涙ながらに酌み交わす最期の酒宴の場面を展示しています。義経の酒宴そして後半は、大奮闘の後、立ったまま死を遂げる弁慶の立ち往生の場面を展示します。弁慶の立ち往生

 

義経や常盤御前、敦盛や曽我兄弟など、戦国武将に愛された英雄たちの名場面をどうぞお見逃しなく!

 

谷川ゆき