こんにちは、クリザンテームです。前回に引き続き、今回もグラース国際香水博物館での香水散歩が続きます。
順路に沿って展示室を巡る間、ひときわ感慨深く拝見した一連の展示品がありました。
おそらく作品保存上の理由でしょう。ほの暗い照明の下、ひっそりと展示されているのですが、引き出し式ケースにおさめられた皮手袋を見落とすわけにはいきません。というのも、それは、グラースが香水の町となった機縁を物語るからです。
かつてグラースは、高品質のなめし皮の産地として何世紀にもわたりその名を知られる存在でした。なめし皮には独特のあまり好ましくない匂いがつきものです。そこで考案されたのが、香り付きの皮革製品でした。
そもそも皮革製品に香りを付ける伝統は、アラブに由来し、スペイン経由でヨーロッパに伝えられたものです。香り付き皮革製品は、当然パリでも生産されていましたが、南仏に位置するグラースは花々の大規模栽培に成功したため、香りつきの皮革製品、とりわけ香り付き手袋でグラースが名を馳せるようになったのです。
展示室の片隅にさりげなく置かれた皮手袋に、この町の歴史が詰まっているのですね!
今日のグラースは、世界に名だたる調香師と香水を輩出し続けています。博物館には、そのようなお土地柄ならではの、香りそのものを楽しめる仕掛けが数多くあるので、童心に戻りワクワクしてしまいます!
例えば、こちらはボタンを押すと、その香りが噴射される機械。クリザンテームは、その日、鼻の調子があまりよろしくなかったのですが、博物館へ向かう道すがら、通りの薬局で求めた天然ハーブ鼻スプレーのおかげで、すっかり調子を取り戻し、様々な香りを楽しむことができました。
ネロリの甘やかな香りが漂ってきました!
でも自然に囲まれたグラースにせっかくいるのですもの、天然の香りも味わいたいわ……という望みも、博物館は叶えてくれます。前編でお伝えした中庭の他にも、本格的なハーブガーデンを有する空中庭園を備えているのです。
そのハーブガーデンへと通じる廊下の壁には、天然香料が展示されています。
香料の先に、ハーブガーデンが垣間見えるとは、なんと洒落た演出!
そしてこちらが、ハーブガーデン入り口です。
ハーブガーデンは温室エリアと、屋外エリアに分かれています。そのいずれからも、周囲の歴史ある街並みが同時に楽しめます。
温室の壁には、香料となる植物の世界分布図が。勉強になります!
各植物の説明も詳細で、これまた勉強になります!
例えば、こちらはタイム。香りの特徴はもちろんのこと、シャネル社「アンテウス」、ケンゾー社「ケンゾー プール オム」等、香料として使われた香水名まで記されています。
芳香を味わいながら、香りの歴史や今日の使われ方を深く知ることができる博物館の訪問を終えて、グラースが私の中でさらに特別な町となりました。
クリザンテーム(岡村嘉子)
◇ 今月の香水瓶 ◇
ケース付き《香水瓶》フランスまたはスイス、1785年頃、透明ガラス、金、七宝
、海の見える杜美術館所蔵